研究課題/領域番号 |
20K14303
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 謙太 九州大学, 数理学研究院, 助教 (10849326)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 強F正則 / klt特異点 / 混標数 / Q-Gorenstein / 変形理論 |
研究実績の概要 |
今年度は,高木俊輔氏との共同研究で,代数多様体の特異点の変形理論を研究した.正標数の多様体の特異点のクラスである強F正則特異点は,標数0の特異点のクラスであるklt特異点と強いつながりがあることが知られている.Ma氏とSchwede氏は最近,代数多様体の特異点の混標数局所環上での変形を考えたとき,もし全空間がQ-Gorensteinかつ閉ファイバーが強F正則であれば,一般ファイバーはkltになるということを示した. 今年度はまず,この定理における仮定を弱め,全空間でなく各ファイバーがQ-Gorensteinであれば同様の結果が成立することを示した.これにより,特に二次元特異点の変形の場合は無条件で強F正則特異点がkltに変形することが従う.Ma-Schwedeらによる証明の鍵は,perfectoid Big Cohen Macaulay代数を用いて定義される混標数における新しいイデアル論と,このイデアル論に関する「制限定理」であった.全空間がQ-Gorensteinという仮定を外した場合には,このイデアルが定義できず,同様の手法は使えない.そこで我々は,そのイデアルそのものではなく,canonical moduleを用いてシフトしたものを考えることでこの点を解決した. また,正標数の局所環上の変形においても,各ファイバーがQ-Gorensteinという仮定のもと,強F正則特異点の変形がまた強F正則になることを示した.これらの結果と,最近のLiedtke氏,Martin氏,松本氏らによる理論を合わせることで,線形簡約商特異点が変形で保たれることも示される.一方で,Ma-Schwedeらによる結果のもう一つの拡張として,全空間がQ-Gorensteinの仮定のもとで,鋭F純特異点の変形がlog canonical特異点になることも示した.これらの結果をプレプリントとして発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,大域的F正則な射影多様体の有界性を解明することを最終目標とし,局所大域双方の視点から研究を行っている.特に正標数の特異点の不変量であるF純閾値に関する昇鎖条件を検証することでこの問題にアプローチすることが方針の一つであったが,今年度の研究によって,強F正則特異点の振る舞いについて更なる知見を得ることができた.このように,本研究課題は着実に前進しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,大域的F正則射影多様体がいつ標数0にリフトするか,また標数0にリフトする場合,有界性に関するどのような性質が成り立つか,という問題を考えたい.前者については秋月中野型の消滅定理に注目して研究を進めたい.後者については,錐をとることで現れる特異点の振る舞いに注目したい.その際,今年度の研究で培った,non-Q-Gorensteinな状況での特異点の変形理論への知見が有効なのではないかとにらんでいる.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19により出張がすべてなくなった為,2020年度の助成金の一部を2021年度に持ち越すこととなった.オンライン環境を整える為の物品購入費等に使用する予定である.
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