研究課題/領域番号 |
20K14306
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤野 弘基 名古屋大学, 高等研究院(多元), 特任助教 (90824037)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 反ド・ジッター空間 / タイヒミュラー空間 / ボンサンテ・シュレンカー対応 / 極大曲面 / 調和写像 / 光的直線 |
研究実績の概要 |
反ド・ジッター空間における曲面論と普遍タイヒミュラー理論との相互的研究の一つとして、リーマン面がタイヒミュラー空間内でどのように退化するか、退化の様子をボンサンテ・シュレンカー対応を用いて可視化することを試みた。ボンサンテ・シュレンカー対応は「タイヒミュラー空間」と「三次元反ド・ジッター空間内のある種の極大曲面全体」との間の一対一対応である。これにより抽象的なリーマン面が、反ド・ジッター空間という三次元(すなわち可視化可能な)時空内の曲面に置き換わるため、退化の様子を可視化でき(収束したとすれば)退化極限を実際に目で見ることが可能となる。 本年度では、反ド・ジッター空間内の極大曲面を調べるための基礎研究として、より扱いの容易となるミンコフスキー空間内の極大曲面を詳しく調べた。特にボンサンテ・シュレンカー対応においてリーマン面の退化極限に対応する「拡張不可能グラフ」について研究を進めた。 その結果として、当該研究分野における重要な未解決問題である「極大曲面の境界に現れる光的直線に関する鏡像の原理」について重要な成果を得た。ここでは「光的線分」に対し鏡像の原理が存在することを示している。さらにその後の研究として「大域的な光的直線を境界に持つ極大曲面の具体的構成法」という問題についても幾つかの成果を得た。大域的な光的線分を持つ極大曲面の存在については、赤嶺・梅原・山田らによって微分方程式の可解性という形でその存在が証明されていた。一方でその具体例の構成法については未だ未解明のままであった。しかし本研究の成果としてそのような極大曲面を具体的に構成することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「光的線分に関する鏡像の原理」は長らく未解決だった重要な問題であり、結果として従来の「シュワルツの鏡像の原理」とは全く異なった対称性を誘導するものであることが本研究により明らかとなった。それゆえ当該分野におけるインパクトは大きいものである。さらにその応用として新しい種類の周期曲面を構成することが可能となった。 また「大域的な光的線分を境界に持つ極大曲面の具体的構成法」については、そのような極大曲面を「拡張不可能曲面」のクラスで構成しようとすると、少なくとも二つの大域的な光的線分が境界に現れてしまうということが観察として得られている。また本研究で得られた具体例の境界挙動から、大域的な光的線分は従来のエンド(リーマン面上の孤立特異点周りでの挙動)という概念で一般には捉えられないということも明らかになった。しかし本研究結果を発表するためには「拡張不可能極大曲面」の一般論を構築することが肝要であると考えられる。特に「拡張不可能曲面」のクラスを定式化しその学術的重要性を示すことは、上記研究の意義を主張するためには避けられない課題と言える。そのため上記した研究成果の発表は現時点では保留としており、「拡張不可能曲面」の一般論の研究を進めることにした。さらに「拡張不可能曲面」研究についても幾つかの成果が得られてきている。 これらの成果は本研究課題の達成に対し確実に前進していることを意味しており、それゆえ年度内の研究活動に関する取り組みはおおむね順調であると自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
上記研究が順調に進展していることを考え、今後も上記の研究方針を維持し研究を進める。その上でミンコフスキー空間内の極大曲面に対する研究結果が反ド・ジッター空間内の極大曲面に対しどのくらい適応できるか順番に検討していく。 またミンコフスキー空間内の極大曲面を調べるにあたり関数論の手法が大きな役割を果たした。これらの手法は具体例の構成、すなわち具体例を用いた観察、を行うのに非常に有用であった。そのため反ド・ジッター空間内の極大曲面に対しても同種の関数論的手法を確立することも視野に入れて研究を進める。これは双曲平面への調和関数を調べることを意味するが、そのような調和関数について研究が進展した場合、近年活発に研究が進んでいる直積空間内の極小・極大曲面の理論にも応用が期待できる。またトラルボらの研究によってある直積空間内の極小曲面が反ド・ジッター空間内の極大曲面と対応していることが示されている。この意味でも双曲平面への調和関数の研究は、本研究の進展において重要であることがわかる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルスの世界的流行の影響によりほとんど全ての研究集会がオンライン開催となった。それゆえ旅費として計画していた予算を全く使用することができなかった。 次年度では研究集会の現地開催が可能となった場合、海外の研究集会への参加も含め次年度使用額を活用し研究の推進に役立てる。 また現在使用している電子機器(ノートPC、タブレット端末など)に対し経年による不具合などが見られるようになってきたため、これらを買い換えることなどに次年度使用額を用い研究を効率的に進めることに役立てる。
|