研究実績の概要 |
本年度は, 数理物理にかかわる以下の3つの研究を行った. 第一に, 素粒子物理学の格子ゲージ理論に現れる, 楕円形作用素の離散近似からどのようにFredholm指数を復元するか, という問題を扱った. シンプレクティック幾何学で古くから研究されてきた変形量子化の理論と幾何学的量子化の理論を応用することで, 格子上の作用素に対する「格子版Atiyah-Singer指数定理」を定式化・証明し, 上記の問題に解を与えた. これは物理への応用に価値があるだけでなく, 変形量子化の理論の新たな応用であり, 数学的にも面白い結果である. この結果は論文として発表した. 第二に, 前年度に引き続き, 境界つき多様体上の楕円形作用素に対するAtiyah-Patodi-Singer指数に物理的な再定式化を与える研究を行っている. これは数学者である古田幹雄氏, 松尾信一郎氏と, 物理学者である大野木哲也氏, 深谷英則氏, 松木 義幸氏, 山口哲氏との共同研究である. 本年度は, 反対称実作用素の場合に定式化されるmod 2指数を扱い, 非局所的境界条件を必要としない定式化を得た. この結果はプレプリントにまとめ, 現在投稿中である. 第三に, 代数トポロジーを用いた場の理論の分類問題に関する研究を開始した. これは物理学者である米倉和也氏との共同研究である. トポロジカルとは限らない可逆な場の理論の性質を抽象化することで, Anderson双対と呼ばれる一般コホモロジー理論のモデルが構成できることを示した. これは, Anderson双対により可逆な場の理論が分類されるというFreed-Hopkinsの予想の肯定的解決に向けた大きな一歩である. この結果については現在論文執筆中である.
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今後の研究の推進方策 |
代数トポロジーを用いた場の理論の分類問題に関する研究を引き続き進める. まずすでに得られた一般論に関する結果を論文にまとめ, 発表する. さらにその一般論を応用・発展させる研究を行う. 具体的にはフェルミオンの分配関数に微分KO理論を用いた解釈を与えること, またAnderson双対を用いて共形場理論のアノマリーを調べること, を計画している.
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