2023年度は、代数トポロジー・ホモトピー論と、素粒子物理学の関連についての研究を進めた。前年度に引き続き、Topological Modular Forms (TMF)と呼ばれる一般コホモロジー理論を用いた研究を行った。一般コホモロジー理論TMFは、現代ホモトピー論の「金字塔」ともいえる、純粋数学的に重要な研究対象である。一方、「TMFが2次元超対称場の理論を分類する」というSegal-Stolz-Teichner予想を通じて、理論物理学とも深く関係している。 物理学者の立川裕二氏との共同研究において、TMFのAnderson自己双対性の超弦理論的解釈とその応用についての研究を2022年度に開始していたが、その結果をプレプリントにまとめて現在投稿中である。また、この研究で得られた知見を元に、数理物理学者であるTheo Johnson-Freyd氏との共同研究を行った。TMFは「576周期性」という興味深い性質を持つことが数学的事実として知られているが、それに対する場の理論的な解釈は知られておらず、大きな謎の一つとされていた。この「576周期性」に微分幾何学的かつ場の理論的な解釈を与えたというのが主結果である。この結果もプレプリントにまとめて、現在投稿中である。さらに、さまざまな対称性のある超対象場の理論を分類するとされる「同変ねじれTMF」に関して、物理学者であるYing-Hsuan Lin氏と数学者である富永章氏との共同研究も開始して、現在進行中である。 研究期間全体を通して、TMFおよびSegal-Stolz-Teichner予想という、ホモトピー論と物理学を結びつける深いトピックの研究に踏み込み、物理学者たちと共同しながらさまざまな研究成果を出すことができた。今後もこれらの研究をさらに発展・深化させていこうと考えている。
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