研究課題/領域番号 |
20K14308
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高橋 良輔 九州大学, 数理学研究院, 助教 (20854706)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケーラー・アインシュタイン計量 / 幾何学的フロー / GIT安定性 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の2点について考察を行った. 1つは,Calabi Ansatz上における逆モンジュ・アンペール流の研究である.射影空間束等の回転対称性がある設定下において,フローの方程式をsymplectic potentialに対する1空間変数を含む時間発展方程式に帰着させた.この場合はソリトンの方程式もODEに帰着するので,方程式を具体的に解くことによりその形状を求めることができる.ソリトン解を許容しない具体例として2次元射影空間上の直線束を考察し,その場合のODE解の爆発の様子(あるいは,爆発しない場合でも計量の正値性条件が満たされないようなローカス)がどのように現れるのかを調べた. もう1つは,半安定な場合の逆モンジュ・アンペール流の考察である.2015年にDonaldsonによって導入されたDing汎関数のGIT描写を参考に逆モンジュ・アンペール流を適切な微分同相写像の族で引き戻すことにより,Gauge不変性を持つような複素構造のモジュライ空間上のある幾何学的フローに帰着させた.これに対してSimon-Lojasiewicz型不等式の構成を試みた.また,Simon-Lojasiewicz型不等式をフローの収束に応用する上で,短時間安定性(初期値の変動に対するフローの解の短時間変動)や放物型bootstrap(フローに沿った曲率のコントロールがある状況下で,高階微分の評価を行う)の構成を試みた.結果として,ケーラー・リッチフローの場合によく似た性質を持つことが分かった. その他にも,類似性のある問題として,J-方程式や変形Yang-Mills方程式等のcomlex Hessian方程式についての研究も行った.具体的には,幾何学的フローによる解の構成や,解が存在しない場合のフローが爆発する様子の研究である.complex Hessian方程式に対する研究結果は幾つかの国内の研究集会において発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Calabi ansatz上のフローの研究についてはソリトン型方程式に対する考察にとどまっており,それを使って幾何学的フローの極限挙動をどのように調べるかということまでは踏み込めていない.また,モジュライ空間上のフローに対してもSimon-Lojasiewicz型不等式の構成はまだできていない.これはDonaldsonのGIT描写の考察対象が可積分な複素構造のモジュライに限定されており,したがって,そのような空間には自然なFrechet微分構造が入らないことに起因する問題であることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
Calabi ansatz上のフローの考察については,J-flowの場合に先行結果があるのでそれを参考にして研究を進めたいと考えている.また,複素構造のモジュライ空間上のフローに対しては,DonaldsonのGIT描写を概複素構造のモジュライに対してまで広げることにより,Simon-Lojasiewicz型不等式が得られると考えている.一般の状況では最適退化の構成の目処は立っていないが,一方でJ-方程式や変形Yang-Mills方程式などのcomplex Hessian方程式に対しては,昨今の研究において大きな進展が見られた.アイデアは連続法に沿って計量が崩壊するローカスに沿って特異点解消を取り,その近傍におけるsubsolutionの存在を適用するというものである.特殊な状況下では同様の手法がケーラー・アインシュタイン計量に対しても適用できるのではないかと考えている.また,complex Hessian方程式への応用も視野に入れつつ,今後の研究を進めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はCOVID-19の蔓延により国内外合わせて多くの参加予定の研究集会が中止となったため,助成金の主体である旅費が全く使用できないという状況にあった.もし,翌年度以降にこの事態が収束すれば,研究集会が順次再開され,今まで通り研究集会に参加できることが期待される.既に講演予定の研究集会が2件ある.また,研究集会では研究に必要な情報の収集及び他の研究者との研究討論を行いたいと考えている.一方で,Zoom上での研究集会は今後も並行して行われていくと考えられるので,そのために必要な電子機器類の整備や,数学関連の書籍・雑誌の購入に充てたいと考えている.
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