研究実績の概要 |
各点で点対称と呼ばれる変換が定義されているリーマン多様体をリーマン対称空間という. リーマン対称空間は球面やグラスマン多様体, 双曲空間などを例とし て含んでおり, 微分幾何学において重要な研究対象である. また全測地的部分多様体とは測地線の概念を一般化したものである. 「真直ぐなものを考える」とい う意味で, 全測地的部分多様体は最も基本的な部分多様体のクラスの一つである. 本研究課題ではディンキン指数と呼ばれる不変量を定義し, 応用することによりリーマン対称空間内の部分多様体の分類問題に取り組むものである. 前年度までに既約リーマン対称空間内の全測地的部分多様のディンキン指数の整数性の幾何学的な証明が得られていた. また擬リーマン対称空間上の不連続群についての小林固有性判定定理との関連についても調査を行っていた. 当該年度の研究においては全測地的部分多様体のディンキン指数の整数性について, 最高重み表現についてのリー代数の理論を援用することにより, 前年度までに得られていたものよりも簡単な代数的証明を得ることに成功した. またリー代数レベルで複素化して考えた場合のリー代数準同型のディンキン指数との関係についても明示的な式を用いて説明できるようになり, 特に極小冪零軌道の概念を用いることでディンキン指数が 1 となる全測地的部分多様体の特徴付けも得られた. さらにリーマン対称空間が既約でない場合にも全測地的部分多様体に行列の形でディンキン指数が定義でき, ある種の関手性を持つことも分かった(論文準備中).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディンキン指数の整数性について簡潔な証明が得られたことは非常に 大きな進展であると考えている. また冪零軌道との関連が明確になったことにより表現論とのつながりも期待できる. しかし, 当該年度においてはコロナ禍のため研究以外で予期せぬ形で時間をとられる場面が多く, なかなか論文執筆など時間が必要な作業に集中することが難し く, また参加を予定していた研究集会も軒並み中止となり, 研究発表や論文投稿には至らなかった.
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