研究実績の概要 |
本研究では, Cantor集合の対称性を記述する群であるThompson群Vを対象に, 幾何学的な観点から研究を行っている. 特にCAT(0)空間と呼ばれる, 非正曲率距離空間への群作用について研究を行っている. 本年度の主な結果は次の通りである. ・Thompson群Vの部分群であるHigman-Thompson群T_nの固定点性質に関する結果を得た. この群はRichard Thompson群Tの「n分岐版」である. 一般に固定点性質を持つ群の具体例を構成するのは難しいが, T, Vはそのような数少ない具体例の一つとして知られている. しかし, T_nが同様の固定点性質を持つかどうかは知られていなかった. 今回得られた結果では, T_nの新たな有限生成系を構成し, それを用いて, T_nが被覆次元有限のCAT(0)空間へのsemi-simpleな群作用に対して固定点性質を持つことを示した. この新しい生成系は, T_nの自己相似性を反映するという意味で性質の良いものであり, さらに, 任意の二つの生成元の生成する部分群がZ^2またはThompson群Fに同型という良い性質を持っている. このような生成系を用いることで, Tに対する証明の一般化の仮定における技術的な困難を回避することに成功した. この結果によって, 本研究で構成を目指すV のCAT(0)空間の群作用が満たすべき十分条件が得られた. より一般に, CAT(0)空間への群作用が固定点性質を満たすために, 群が満たすべき条件についても結果を得た. ・Thompson群Vの部分群であるThompson群Tの自己同型群について研究を行った. 特に, Tの自己同型が位相共役を用いて記述されるという先行結果の別証明について考察した. 結果の一部に関し、研究集会「暗号及び情報セキュリティと数学の相関ワークショップ」, 大阪大学トポロジーセミナーで講演を行った. 国内外での研究集会や, オンラインでの議論を通し, 関連する最新の研究に関する情報収拾や, 他の研究者との議論を行った.
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今後の研究の推進方策 |
・本年度の結果で得られた, CAT(0)空間への群作用が固定点性質を満たすために, 群が満たすべき条件を用いて, VのCAT(0)空間への群作用の満たすべき条件を構成する. 具体的には, 条件を満たす群のVへの埋め込み可能性について調べる. ・Thompson群の自己同相群について研究を継続する. 特にn分岐の場合にnに依存した結果が得られるか明らかにする.
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