研究課題/領域番号 |
20K14316
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
直江 央寛 中央大学, 理工学部, 助教 (10823255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 4次元多様体 / シャドウ / トライセクション / シャドウ複雑度 / トライセクション種数 |
研究実績の概要 |
シャドウ複雑度とトライセクション種数に関する研究を行った.トライセクション種数はトライセクションの中心曲面の種数の最小値として定義される.今回の研究でシャドウ複雑度を改良し加重シャドウ複雑度を新たに導入した.シャドウの真頂点の個数の最小値としてシャドウ複雑度が定義される一方,加重シャドウ複雑度は真頂点の個数に各領域のオイラー標数と非負実数の重み r に依存する項を加えることで定義される.この加重シャドウ複雑度の性質として,重み r が 0 のときはシャドウ複雑度に一致し,2 以上のときは特殊シャドウ複雑度に一致することを示した.さらに,r が 1/2 以上のとき,任意の閉4次元多様体に対しトライセクション種数が加重シャドウ複雑度の具体的な1次式で上から評価できることを示した.この不等式を用いて,閉4次元多様体のある無限族に対し加重シャドウ複雑度の値を決定した.さらに,r=1/2 のときの加重シャドウ複雑度が1/2以下であるような閉4次元多様体の完全な分類を与えた.なお,この研究は小川将輝氏との共同研究であり,現在論文を執筆中である. また,S^1とS^3の直積多様体の任意有限個の連結和に対し,特殊シャドウ複雑度の値を決定した.これまで特殊シャドウ複雑度の値が小さい閉4次元多様体についてはいくつか決定がされていたが,今回の例は特殊シャドウ複雑度の増加列を与える最初の例になっている.このことにより,特殊シャドウ複雑度は2を除く0以上の整数全体への全射であることが示された.このことは論文にまとめ,査読付国際誌へ投稿中である. 上記の研究について,研究集会等で報告を行った.また,昨年度投稿していた2次元結び目とシャドウに関する論文,Kirby-Thompson 不変量に関する論文がそれぞれ査読付国際誌から出版されることが決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加重シャドウ複雑度とトライセクション種数に関する不等式を証明するにあたり,シャドウから Kirby 図式を構成し,そこからトライセクションを構成した.それぞれの図式の変換方法を一般的な状況で確立できたため,これらは今後のシャドウやトライセクションの研究の礎となることが期待できる.また,当初トライセクションからシャドウを構成する手法は知られていたため,シャドウ複雑度によるトライセクション種数の下からの評価が得られることを想定していたが,実際には真頂点の個数のコントロールが難しく現状得られていない.しかし,今回証明した不等式は当初の想定とは別方向の結果ではあるが,これ自体十分な成果と言える.トライセクションとシャドウを意味のある形で関連付ける最初の研究でもあり,今後の双方向の研究の活性化が期待できる.また,今回導入した閉4次元多様体の加重シャドウ複雑度は特殊シャドウ複雑度と同様に finite-to-one という性質を持つことが判明したため,閉4次元多様体のリストを作成するための新たな指標が定義できたことになる. S^1とS^3の直積多様体らの連結和の特殊シャドウ複雑度の決定については,トライセクションとシャドウの研究の副産物として得られた結果である.これも当初計画していたものではなかったが,初等的な証明によりある程度簡潔な論文が作成でき,満足できる成果と言える.
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今後の研究の推進方策 |
トライセクションとシャドウの研究を足がかりに,特に種数と複雑度の間の不等式を証明する際の手法を用い,曲面結び目に対し橋トライセクション種数とシャドウ複雑度の関係について研究を行う.また,接触構造・シンプレクティック構造,スパイン,シャドウの関連についても継続して研究を進める. 関連分野の研究者と行っている (オンライン) セミナーを継続する.さらに国内外の研究集会に参加し研究発表および意見交換を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症に起因する一昨年度までの次年度使用額が潤沢にあったため,昨年度の1年間で使用することができなかった.今度の次年度使用額は研究集会参加のための費用に充てる.
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