研究課題/領域番号 |
20K14334
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研究機関 | 大同大学 |
研究代表者 |
田中 清喜 大同大学, 教養部, 講師 (00711491)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多調和函数 / Toeplitz 作用素 / Hankel 作用素 |
研究実績の概要 |
本研究においては,多調和関数のなす再生核ヒルベルト空間を主な研究対象として,再生核ヒルベルト空間の一般論の構築を目指している.2021年度は,2020年度における有界な positive Toeplitz 作用素の特徴づけの続きとして,Toeplitz 作用素の定義域のクラスと値域のクラスの重み,指数を変えて,同様の作用素の有界性,コンパクト性の特徴づけ問題を考察した.考察の結果としては,改良した Berezin 変換,平均函数の有界性によって Toeplitz 作用素の有界性の特徴づけを与えることができた.ここで,これらの改良した Berezin 変換および平均函数は実函数論的な指数量で記述されることを付け加えておく.そのため,この結果は多くの再生核ヒルベルト空間上の Toeplitz 作用素の特徴づけを考える際に期待される結果であるように思われる.この結果については一回の講演を行い,報告書を作成段階では論文を執筆中である. また,2021年度は正則 Bergman 空間上の有界な little Hankel 作用素の特徴づけの精密化を考察した. Axler '86 により,反正則関数をシンボルとする Hankel 作用素が有界であることとシンボルが Bloch 函数であることが同値であることが示されているが,この結果をもとに定義域と値域の指数と重みを変えた状況について研究を進めた.変更した指数の変更に応じて Lipschitz 函数というBloch 函数と同種ではあるが別の函数論的性質によって作用素の有界性を特徴づけることができた.有界性については指数p=q=1の場合にも log-Lipschitz 函数の形で記述できており,指数が1より大きい場合はコンパクト性も記述することができた.この結果は山路哲史氏(神戸高専)との共同研究である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究において,2021年度は多調和 Bergman 空間上の作用素解析,特に Hankel 作用素の有界性の特徴づけ問題の解決を目標に掲げ,コンパクト性,Schatten 族に属するための条件付けについても考察も目標としていた.実際のところは,多調和 Bergman 空間上の Toeplitz 作用素の特徴づけに対しての拡張,正則 Bergman 空間上の有界 little Hankel 作用素の特徴づけの精密化を与えた. 目標としていた多調和 Bergman 空間上の有界 Hankel 作用素の特徴づけについては,新しい結果が得られなかった.正則 Bergman 空間もしくは調和 Bergman 空間上の Hankel 作用素については Toeplitz 作用素と Toeplitz 作用素のadjointを用いての表示もあり,研究が進んでいる点もあるが,多調和 Bergman 空間においてはその点での進展が得られなかった点が大きい.Hankel 作用素を考える際,直交補空間を考えることになるが,多調和函数の空間においては直交補空間の記述はある程度されているとはいえ,まだまだ単純化する必要があるように見える. まとめると,2020年度における問題を精密化したものの解決と Hankel 作用素のの特徴づけについては多調和 Bergman 空間上においては進展が少ないことから,進歩状況の区分としては「(4)遅れている。」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前述の研究実績の概要,現在までの進歩状況でも述べたが,本研究課題は遅れている.2021年度においては,多調和 Bergman 空間上の Hankel 作用素の解析を通して直交補空間の考察を進めるつもりであったが,その点の構造理解が遅れている. ただ,結果的には,2021年度計画段階においてもいくつかの進展のズレを想定しており,のそ範囲内での変更で対応できる遅れであると見通している.2021年度の計画においては重みの段階で問題が起きることを想定して,多調和 Fock 空間に対する情報収集に力を入れる計画を立てていた.実際は直交補空間の構造の部分が障害となっており,函数の定義域によって構造の困難さが変わる見通しである. そこで,今後の研究の推進方法としては,今現在進めてきた研究(多調和 Bergman 空間上のToeplitz 作用素の特徴づけ問題,正則 Bergman 空間上の little Hankel 作用素の特徴づけ問題)に対しては成果をまとめていく一方で,多調和 Fock 空間の構造解析に取り掛かる.多調和 Fock 空間において,直交補空間について解析を進め,多調和 Bergman 空間に理論を流用することを目標とする. 昨年度はコロナ禍の影響により,対面での研究討論の機会はとても少なく,遠隔での討論が目立った.遠隔での討論では限界があるのは事実であり,コロナ禍の影響が少なくなってきた022年度では対面での研究集会,セミナーにも多く参加して研究を進めるように計画している.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナ禍により,当初計画していた研究集会,学会,勉強会が軒並み web 集会の形をとっており,支出が少なくなった. ただ,web 集会の弊害として密な議論を交わすことが難しいという点もあり,研究に遅れが生じている一因でもある. そのため,2022年度以降に多くの対面の議論を行うことによって,研究の遅れを取り戻すことを目指し,その費用を計上している.
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