令和5年度の研究では、次の2つの成果を得た。 1つ目は、2次の非線形項をもつ非線形シュレディンガー方程式の適切性に関する研究を行った。本年度の研究では、初期値に角度方向の正則性を課すことで、通常のソボレフ空間における適切性よりも広い空間において適切性が得られることを示した。さらに、非適切性についても考察し、今回得られた角度方向の正則性に関する条件は精密なものであることも示した。(平山浩之氏、木下真也氏との共同研究) 2つ目は、ガウス型の初期値をもつ非線形波動方程式に関する研究である。ギブス測度の台に属する初期値に対しては、時間大域的な可解性が知られていた。本研究では、その近くの解がどのように振る舞うかについて明らかにした。特に、摂動の仕方を指定しなければ、解写像の連続性が破綻することを示した。(Tadahiro Oh氏、Nikolay Tzvetkov氏との共同研究) 研究期間全体を通して実施した研究では、非線形シュレディンガー方程式、波動方程式などの非線形波動・分散型方程式に関して、解の挙動や特異性の観点から研究を行った。特に、適切性と非適切性とを分ける臨界な正則性を決定した。さらに、逐次近似法では解の存在が示せない状況において、非線形項の影響を丁寧に観察することで、修正エネルギーを構成し、適切性を示した。また、解が通常の散乱とは異なり、非線形項の影響を伴った修正散乱が起こることを証明した。非線形波動・分散型方程式に関するこれらの成果により、解の特異性が発生する構造の捉え方の指針が得られた。
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