研究課題/領域番号 |
20K14343
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高棹 圭介 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (50734472)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 平均曲率流 / フェイズフィールド法 / 幾何学的測度論 / 変分問題 / 特異極限問題 / バリフォールド / 弱解 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に体積保存平均曲率方程式について研究した。この方程式は、自身の面積を減らすように動く曲面の運動方程式である平均曲率流方程式に対し、その曲面が包む領域の体積が一定であるという条件を課したものである。研究代表者による2017年の先行研究では、空間次元が2と3の場合における、弱解の時間大域存在が示されたが、空間次元が4以上においては未解決であった。前年度では、体積保存条件をペナルティ法によって表現した新しいフェイズフィールド法を考案した。このフェイズフィールド法による近似解はいくつかの良い性質を持つ。まず、方程式にリスケールを施すと、体積保存条件から導出される非局所項がエラー項とみなせ、既存の理論を適用できることが挙げられる。また、非局所項のL^2ノルムについては、フェイズフィールド法のパラメータに依存しない上からの一様評価を得ることが出来る。本年度は、これらの良い性質を用いて任意の空間次元における体積保存平均曲率流方程式の弱解の時間大域存在を示した。さらに、初期値が滑らかで、測度の意味で十分球に近い仮定の下では、初期時刻の近くでは曲面の多重度が1(弱い意味で自己交叉が起きない)ことも示した。この結果は現在投稿中である。 また本年度は、近年Epshteyn-Liu-Mizunoによって提唱された金属結晶の焼きなましにおける結晶粒界の運動方程式(ここではELMモデルと呼ぶ)について、日本大学の水野将司氏、室蘭工業大学の可香谷隆氏との共同研究を行った。ELMモデルの線形化方程式の解析や解のエネルギー評価によって、初期値がトリプルジャンクションと呼ばれる形状の場合の時間局所解の存在と、初期値が十分定常解に近い場合における解の時間大域存在と漸近挙動を明らかにした。本結果は現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
体積保存平均曲率流方程式の弱解について、大幅な進展があった。本研究に近い先行結果では、近似解がある関数に良い意味で収束するという強い仮定を課しているが、本研究ではその仮定を取り除いたことが理由として挙げられる。尚、この仮定は本研究の結果の一部である、多重度が1という性質におおよそ相当する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた平均曲率流方程式に対する障害物問題の結果と、本年度に得られた結果を組み合わせることにより、体積保存平均曲率流方程式の障害物問題を考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、主に学会参加や研究打ち合わせ等の旅費で使用する予定であったが、新型肺炎の影響により出張や共同研究者の招へいが出来なかったため、翌年度に使用することとした。翌年度は、出張が可能になれば、旅費に使用予定であるが、新型肺炎の国内外での感染状況が改善しなければ、オンラインでの学会参加やオンラインでの研究打ち合わせのための環境整備に使用予定である。
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