本研究では、主に以下の問題について取り組んだ。 (1)平均曲率流方程式の障害物問題を考察した。障害物問題とは、平均曲率流方程式の解である曲面が領域内の障害物によって動きを制限される問題である。本研究ではまず、周期境界条件下で、空間次元が2または3のときにBrakke flowと呼ばれる弱解の時間大域存在を得た。この結果は2021年に論文雑誌に掲載された。 2022年度からは、研究協力者のウィーン大学のKaterina Nik氏と共同研究を行った。2023年度には、滑らかな境界を持つ有界領域の内部に障害物がある場合の、ノイマン境界条件下での平均曲率流方程式の弱解(Brakke flow)の存在を示した。この結果は論文にまとめ投稿中である。 (2)平均曲率流方程式に体積保存条件を課した、体積保存平均曲率流方程式を考察した。本研究では、先行研究とは異なる非局所項付きAllen-Cahn方程式を考えた。この新しい非局所項は、特異極限では体積保存条件を満たし、放物型リスケーリングを行うと方程式の摂動とみなせるといった利点がある。本研究ではこの性質に着目し、任意の空間次元での弱解の時間大域存在を得た。この結果は2023年に論文雑誌に掲載された。 (3)Epshteyn-Liu-Mizunoによって提唱された金属結晶の焼きなましにおける結晶粒界の運動方程式について、研究協力者の日本大学の水野将司氏、室蘭工業大学の可香谷隆氏との共同研究を行った。この運動方程式は、平均曲率流方程式に隣り合う金属粒同士の方位差の影響を加えたモデルである。本研究では、初期値がトリプルジャンクションと呼ばれる形状の場合において、時間局所解の存在と、初期値が定常解に近い場合における解の時間大域存在及び漸近挙動を示した。本結果は論文雑誌に掲載予定である。
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