研究課題/領域番号 |
20K14346
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
若杉 勇太 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (20771140)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 消散型波動方程式 / 非線形波動方程式 / 時間大域解 / 解の爆発 / 漸近挙動 |
研究実績の概要 |
(1) 側島基宏氏(東京理科大学)と共同で,空間変数に依存する摩擦項をもつ線形波動方程式に対して,解の高次漸近展開について研究を行なった.解の第1次漸近系が対応する放物型方程式の解で与えられることはすでに知られていたが,高次の漸近系については,Fourier変換が適用できる定数係数の場合などに限られていた.本研究では,Sobajima (2020年)の抽象的発展方程式に対する漸近展開の手法をもとに,解の漸近系がみたす微分方程式を帰納的に決定していく方法を構築した. (2) 池田正弘氏(理化学研究所・慶應義塾大学)と谷口晃一氏(東北大学)と共同で,測度空間上の抽象的非線形消散型波動方程式に対する初期値問題を考察した.まずスペクトル分解の方法を用いて,Matsumura(1976年)の結果の一般化となる線形評価を導出し,それをもとに非線形問題に対し,小さい初期値に対する時間大域解の存在を証明した.応用として,これまで部分的な結果しか得られていない一般領域でのDirichlet, Neumann, Robin問題や,変数係数の楕円型作用素,Kato型およびDiracデルタ型のポテンシャルをもつSchrodinger作用素,Sierpinski gasketなどのフラクタル図形上の非線形消散型波動方程式に対する時間大域解の存在を与えた. (3) 津田谷公利氏(弘前大学)と共同で,de Sitter時空における非線形波動方程式の時間大域解の非存在および解の最大存在時間の評価に関する研究を行なった.有限伝播性および時間変数のみに依存する関数を用いたテスト関数法により,先行研究で課されていた非線形指数についての制限を取り除き,さらに対応する常微分方程式の観点から妥当と思われる最大存在時間評価を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間変数に依存する摩擦項をもつ線形波動方程式に対する漸近展開は,使える手法が少ないこの種の問題の中で非常に精密な結果であり,本研究で開発した手法は他の消散構造をもつような問題にも適用可能で,今後の幅広い応用が期待される. また,測度空間上の抽象的方程式に対して開発したスペクトル分解を用いる手法も,これまでFourier解析が使える場合に限られていた結果を一般化し,個々の問題設定に依らない統一的な理論を作ることができると期待される. 宇宙論に関連する非線形波動方程式については,前年度までの研究で残されていたケースであるde Sitter時空の場合を解決することができた. 以上,計画していた研究成果に加えて,今後幅広い応用が期待できる研究手法を開発することができたことから,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究で開発した漸近解析の手法とスペクトル分解の手法を洗練させ,より広い問題に適用していく.まずはKelvin-Voigt型の摩擦をもつ波動方程式の場合を考察し,解の漸近系や高次漸近展開について研究を行う.宇宙論に関連する非線形波動方程式については,残された問題である時間大域解の存在の部分の解決に取り組む.まずは時間変数係数をもつ線形波動方程式に対する平滑化評価について研究を行い,それを非線形問題に応用する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、予定していた研究出張が実施できず、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、翌年度分として請求した助成金と合わせて、研究集会への参加および研究打ち合わせに用いる。
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