研究実績の概要 |
2022年度は2次元オイラー方程式, 3次元軸対称オイラー方程式における渦対, 渦輪の軌道安定性の研究を, 理想MHDへ拡張し磁場の安定性の問題に応用した. 逆転磁場ピンチにおけるMHD乱流の重要なコヒーレント構造はテーラー状態を呼ばれるエネルギー最小フォースフリー場である. テーラー状態の安定性は微小な抵抗の下でのラグアンジアン部分領域上の劣ヘリシティーの散逸と全ヘリシティーの保存を前提としており, この仮説はテーラー予想と呼ばれる. テイラー予想の数学的研究は90年代後半に開始され, 近年ファラコとリンドバーグによりルレイホップ解の弱理想極限を用いたテーラー予想の数学的証明が与えている. Convex integrationを用いた弱解の構成の研究も行われており, 緩和理論に沿った散逸をもつ弱解や, 反対にヘリシティーが増大するような奇妙な弱解も構成されている. 本研究ではまずテーラー予想の帰結として, テーラー状態の安定性がルレイホップ解の弱理想極限の枠組みで得られることを見出した. 一方で最近のコンピューターシミュレーションではテーラー状態ではなく, 非線形フォースフリー場に緩和するMHD乱流が観測されている. 非線形フォースフリー場の存在は対称性がない場合不明であるが, 明示的な軸対称解がチャンドラセカール(1956)により発見されている. 本研究ではチャンドラセカール解を用いてテーラー緩和に基づく非線形フォースフリー場の緩和理論を提唱した. 即ち, チャンドラセカール解のMHD軌道安定性を軸対称ルレイホップ解の弱理想極限の枠組みで確立した. この結果はプレプリントとして纏め, arXiv, 査読つき学術雑誌に投稿した. 年度の後半は3次元定常オイラー方程式の斉次解の研究を行い, 斉次性と解の存在, 非存在の関係について予備的な結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では渦対, 渦輪のオイラー方程式における軌道安定性が研究目的であったが, これらのコヒーレント構造の安定性は乱流の双カスケードに基づき, MHD乱流に応用可能であることがわかった. またフォースフリー場の研究からオイラー方程式の斉次解の存在もわかった. プレプリントの執筆が予定よりも遅いが, おおむね順調に進展していると評価して良いだろう.
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今後の研究の推進方策 |
2次元オイラー方程式の時間無限大の挙動についての重要な予想は渦度の弱コンパクト性である. この予想の解決に向けて, 自己相似解, 漸近安定性, mixing, anomalous dissipation, 不変測度などの研究を取り入れてMHD乱流の場合も含めて研究を進める.
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