研究課題/領域番号 |
20K14351
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研究機関 | 釧路工業高等専門学校 |
研究代表者 |
若狭 恭平 釧路工業高等専門学校, 創造工学科, 講師 (60783404)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非線型波動方程式 / 解の爆発 / 時間大域解 / ライフスパン |
研究実績の概要 |
2020年度は、以下に掲げる2つの研究テーマに取り組んだ。 1. 2次元外部領域における半線形波動方程式の解の爆発および解の最大存在時間(ライフスパン)の上からの評価について 2. ハートリー型の非線形項をもつ波動方程式の解の爆発およびライフスパンの評価について 1.は、Ning-An Lai氏(中国・麗水大学)、Mengyun Liu氏(中国・浙江理工大学)、Chengbo Wang氏(中国・浙江大学)との共同研究によるものである。外部領域における半線形波動方程式の解のライフスパンの上からの評価の導出については、空間2次元の場合のみが未解決であり、本研究課題の達成目標の1つであった。非線形項の指数が2次より大きく、シュトラウスの臨界指数より小さい(劣臨界)か等しい(臨界)場合に得られたライフスパンの評価は、初期値問題の場合と同様であり、最適であると予測される。手法はテスト函数法を基礎としているが、報告者とBorislav Yordanov氏(北海道大学)との共同研究で発見した、対応する楕円型方程式に関してパラメータを導入し、それを変数とする積分に着目する手法が本質的に寄与している。 2.は、主に田中智之氏(名古屋大学・学振PD)との共同研究によるものである。ハートリー項のポテンシャルの指数と、初期値の減衰指数がともに臨界であるとき、先行研究で解の有限時間内爆発が予想されていた。解の各点評価を中心とした Fritz John の手法を基本としたが、合成積の項において特性方向の要素を引き出すことが重要であった。更にライフスパンの上からの評価において、臨界の場合に有用なスライシング法を行うための領域の条件をやや緩めることを見出し、最適な上下からのライフスパンの評価を得ることで予想を肯定的に解決した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元外部領域における半線形波動方程式の解の爆発および解のライフスパンの評価の導出を行うことができたため、本研究課題の1つの目標を達成した。また、臨界性に着目したハートリー型波動方程式の結果は、様々な非線形性をもつ波動方程式を考察する上で、手法を応用できる可能性がある。以上の手法は、今後の研究目的である、線形項に対する様々な摂動が与えられた波動方程式や、種々の非線形性を備えた波動方程式の爆発解析において応用できると考えられる。また、研究実績の概要で述べた結果は共にarxivで公開されており、査読付き国際雑誌に投稿した。1.の結果は現在査読中だが、2.の結果についてはアクセプトが得られ、近日中には発表される予定である。以上のことから、当該年度の進捗状況を上のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、当研究課題で設定した通り、線形項に摂動を受けた非線形波動方程式の解の爆発解析を行う。空間および時間変数を係数にもつ消散型非線形波動方程式や、シュバルツシルト時空における非線形波動方程式の解の爆発解析がメインとなる。後者は、宇宙物理学に現れる特殊な変数変換を用いると、ポテンシャル項と非線形項に減衰因子を含んだ1次元波動方程式が現れる。事象の地平面を境にして、ポテンシャルや減衰因子の形が大きく異なるところに特色がある。 消散性をもつ非線形波動方程式の解析では、空間および時間変数がそれぞれ単独かあるいは独立に分離されている場合には、数多くの先行研究がある。しかしながら、空間および時間変数が混在している形はほぼ手が付けられていない。更に、係数函数の減衰度合いによって、解の挙動が熱方程式のそれか波動方程式のそれかに分類されることが予想されているが、波動方程式の解挙動を示す場合については、解の各点的な挙動に着目する必要があり、解析が難しい。シュバルツシルト時空における解析では、初期値のサポートがブラックホールから遠く離れた場合に解の爆発が得られた結果は存在するが、サポートがブラックホールに近い場合の結果は、非線形項の指数が2次より小さい場合などを扱っており、2次より大きくシュトラウス臨界指数より小さいか等しい場合に解の爆発が起こるかは不明である。従って今後は、これらの未解決問題に対して解析を行う。解析ではテスト函数法を用いるが、テスト函数を構成する上で、考察する方程式の解の各点的な挙動を捉えることが重要である。研究実績の概要の項目で述べた、Yordanov氏との共同研究で発見した手法は、この過程を達成することができる重要な手掛かりとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、国際研究集会および国内研究集会・学会に出席するための旅費を計上する予定であったが、コロナの影響により、これらの研究集会・学会がオンライン主催もしくは研究会そのものが中止となった。以上が次年度に使用額が生じてしまった理由である。次年度は、コロナの状況が落ち着けば国内学会や研究集会への旅費に充てる。また、オンライン研究会開催のための情報機器の購入や、オンライン配信をスムーズに行うための高性能ノートPCの購入に充てる予定である。
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