研究課題/領域番号 |
20K14355
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
劉 逸侃 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (70773084)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 非整数階拡散-波動方程式 / 非局所性 / 逆問題 / 一意性 |
研究実績の概要 |
本年度は非整数階拡散-波動方程式に関する先行研究と前年度の成果に基づき、解の定性的性質を完備しつつ、関連する逆問題をより一般の設定で考察し、既存の一意性を大幅に改良した結果を証明した。 1. 非整数階拡散-波動方程式に現れる時間微分回数や拡散係数など複数の未知係数を、部分境界における一回の観測によって同時に決定する逆問題について、一意性を示した。この問題に対する従来の方法は無限回の観測を要したが、本研究は境界の入力データを巧妙に選ぶことで解を時間解析的な成分に分解し、Laplace変換によってDirichlet-to-Neumann写像を構成する十分な情報量の確保に成功した。この結果は観測回数を極限まで削減し、既存の結果を本質的に改善した。 2. 解の定性的な性質の1つとして重要な「一意接続性」について、空間1次元における特殊な非整数階拡散方程式に限って、データを必要最小限に減らした。非局所性の影響で、先行研究は余分に境界と部分内部データを仮定したが、本研究は複素解析の手法を駆使して、空間1点におけるCauchyデータによる解の一意性を証明した。さらにその応用として、関連するソース項決定逆問題のシャープな一意性も示した。 3. 上述のソース項決定逆問題のもう1つの側面として、観測時間の一般化を試みた。従来の文献では、初期時刻から観測することは一般的であったが、突発的な事故などにおいて現実的ではない。本研究は方程式の非局所性を逆手に活用し、観測時間を任意の開区間まで緩めても(特に観測が事故が終わった後に始まっても)、ソース項の空間成分を一意的に決定できることを証明した。この結果は理論的に新規でありながら、汚染源の特定などの環境問題への応用も期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非整数階拡散-波動方程式の性質に対する研究は、一意接続性と時間解析性を代表とした定性的特徴づけへの理解は着実と深化しており、時間微分回数1を跨る統合した理論を完成しつつ、特殊の場合はさらにシャープな結果を得た。同時に、いくつかの問題において整数階時間微分をもつ方程式との類似性と決定的な違いを発見し、応用とし関連する逆問題をさらに一般な条件下で解決できた。 一方、特に時間微分回数が1以上の非整数階波動方程式に対する解の幾何学的構造およびエネルギー保存などに関する解析は困難であったが、準備がある程度整ったため次年度に着手する。
|
今後の研究の推進方策 |
今まで得られた成果を整理し示唆を受け、順問題と逆問題に対してそれぞれつぎの研究を行う。 解析が困難であった時間微分回数が1以上の非整数階波動方程式に関しては、解の形状および保存量に焦点を当てて詳しく調べる。具体的には、数値計算からヒントを受け、解の符号変化回数と初期値の関係および微分回数に関する単調性を調べ、逆問題への応用を試みる。また数値計算で補助しつつ、可能な保存量を探して、解の振る舞いを見極め、拡散方程式と波動方程式との関係を解明する。 一方逆問題に関しては、非整数階拡散-波動方程式の既知の性質を精査し、以下の2通りの問題に分けて解析を推進していく:(1) 整数階時間微分をもつ方程式と類似した場合、既存の方法をサーベイし適切に修正した上、非整数階方程式に適用できるかを検証する。(2) 本質的に違った性質の場合、逆に非局所性を利用して、非整数階方程式ならではの手法と結論を探りたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、2021年度に計画した出張は国内2件に止まった。予定していた旅費の大半は使えなかったため、次年度使用額が生じた。2022年度の使用計画については、新型コロナウイルスの今後の情勢を注視しながら、国内における学会参加と研究打ち合わせを中心に出張を計画する。また場合によって、予定していた旅費の一部を物品(書籍、計算機器など)購入に転用することがある。
|