本年度は非整数階拡散-波動方程式の漸近挙動および符号変化に関する理論を深化し、新しい性質をいくつか発見し、さらに関連する逆問題に応用した。 1. 時間微分回数を決定する逆問題について、適切な観測データによる一意性の先行研究があるが、解の短時間漸近挙動のみを用いて同じ結論を証明し、さらに特殊な条件下で初期値の一意性も示した。本研究のデータ量と仮定はすべての先行研究より本質的に弱く、微分回数は方程式に対して支配的であることが示唆された。 2. 時間微分回数が1と2の間にある非整数階波動方程式の解は振動し、最大値原理は成り立たないが、解の長時間定符号性を証明した。すなわち、解の符号変化は有限であり、時間が十分経つと定符号になるが、その符号は初期値に依存することを示した。応用として、関連する時間ソース項決定逆問題の一意性も示した。 研究期間全体を通して、非整数階拡散-波動方程式の定性的性質をより深く解明することができ、いくつかの逆問題も従来より一般の設定で解決した。 解の定性的性質に関して、先行研究が少なかった非整数階波動方程式を解析した結果、「一意接続性」と「長時間定符号性」の側面では時間微分回数が1以下の非整数階拡散方程式と共通する結論に至った。解の時間解析性に加え、これは時間微分回数が0と2の間の発展方程式の統一した定性理論の完成を意味する。一方、1次元の非整数階拡散方程式に限り、空間1点におけるCauchyデータによる一意接続性も得た。 関連する逆問題に関しても、上述理論の発展と新しい手法の導入によって先行研究の結果を大幅に刷新した。上記の微分回数決定逆問題のほか、複数の未知係数の同時決定について、一意性の証明に必要な観測回数を無限回から1回に減らせた。またソース項決定逆問題に関しても、データ量の削減と仮定の一般化など、従来の設定と異なる定式化を調べ、理論解析と数値解析を行った。
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