研究課題/領域番号 |
20K14359
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 寛之 京都大学, 情報学研究科, 特定准教授 (80734433)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 最適化 / リーマン多様体 / 共役勾配法 / レトラクション / p-ノルム / シンプレクティックシュティーフェル多様体 |
研究実績の概要 |
令和5年度は,リーマン多様体上の具体的な最適化問題について,その数理と解法を議論し,結果をまとめた2編の論文を発表した. 一つは,ユークリッド空間上の p-ノルム(ただし p > 1)の意味で定義される単位球面に関するリーマン幾何学的な性質を詳しく解析した研究である.さらに,その上の最適化問題を解くためにレトラクションやベクトル移動などの写像の具体的な計算法を導出した.また,これらの結果の応用例として,球面上の非負制約付き最適化問題や Lp 正則化に関連する最適化問題を議論した.前者は非負主成分分析を,後者は Lasso 回帰や箱型制約付き最適化問題をその具体例として含み,いずれも重要な問題である. もう一つの研究では,シンプレクティックシュティーフェル多様体上の最適化問題に対する共役勾配法を提案し,その性質についての数学的議論を行った.こうした問題はシンプレクティック固有値問題や量子力学への応用があり重要であるにもかかわらず,まだ研究があまりなされていなかった.具体的には,一般的な場合の解法としてはあまり収束が速くない最急降下法が提案されているに留まっており,ニュートン法のような高速な手法は特殊な場合に適用できる形でしか提案されていなかった.そこで,本研究ではシンプレクティックシュティーフェル多様体上の共役勾配法を提案した.この提案手法を実装するために,レトラクションやベクトル移動の計算方法を明示的に導出したことも本研究の貢献である.また,シンプレクティック固有値問題に対して既存手法である最急降下法と提案手法である共役勾配法を適用して解く数値実験を行い,提案手法が既存手法より優れた性能を発揮することを実証した. これら2つの研究はいずれも,具体的な多様体上の最適化問題の求解に大きく貢献するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた通り,令和5年度は具体的なリーマン多様体上の最適化問題についての研究を展開することができた.令和4年度は多様体上の共役勾配法について一般的な新しいクラスについての研究を完成させ,本研究課題の一つの柱である理論的研究を大きく進展させたが,これをシンプレクティックシュティーフェル多様体上の最適化問題にも適用できるよう理論を整備するなど,令和5年度は本研究課題のもう一つの柱である応用研究を推進することができた.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は,多様体上の多目的最適化問題についての共役勾配法の理論を完成させ,論文として発表することを目指す.また,実際に数値実験を行うことで,その実用的な応用も見据えた研究の推進を目指す. さらに,多様体上の最適化で広く用いられるレトラクションによる曲線探索についての新たなアプローチを提案し,レトラクションの計算回数を削減するなど,効率的な解法の研究を進める計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は,開始した令和2年度より新型コロナウイルス感染症の流行の影響を受け,多くの学会や研究会がオンライン開催となったことから旅費の支出が当初の予定より少なくなり,各年度で次年度使用額が生じた.結果として令和5年度も次年度使用額が生じたが,これについて,令和6年度はこれまでより多く必要となることが予想される旅費として使用する他,本研究課題に関連する書籍の購入や,論文の執筆・出版に係る経費として使用する計画である.
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