研究課題/領域番号 |
20K14361
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
飯田 渓太 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (10709653)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 確率過程論 / 超幾何関数 / 遺伝子発現 / シングルセル / 真核生物 |
研究実績の概要 |
2021年度は、前年度に引き続き、転写のオンオフ状態の非マルコフ的な状態遷移を考慮した遺伝子発現モデル(N状態カテゴリカル過程とジャンプ型マルコル過程の連立系)、およびその確率密度関数が満たす時間発展方程式(一般化フォッカープランク方程式)の定常確率分布の導出を実施した。前年度までの解析により、この確率モデルはラプラス空間において一般超幾何級数により記述できることが分かっている。しかしながら、これを逆変換して確率モデルを陽に表示する方法は未解決である。2021年度は前年度に報告者が発見した複素関数論とポストの理論(Post, 1930)を組み合わせた方法を用いて、特殊な場合(N = 1, 2)については確率モデルの解表示が得られることを示した。また、一般の場合(N >= 3)にも、形式的には一般超幾何級数をラプラス逆変換できることが分かった。しかし、一般の場合については、解表示の導出まではできていないため、2022年度も継続する予定である。他方、導出した確率モデルのパラメータ推定法の開発も継続する。これまで公開されている大腸菌と出芽酵母の遺伝子発現データおよびシングルセルRNAシーケンスデータに焦点を当て、条件付きモーメントを利用したパラメータ推定法の開発を行ってきたが、計算時間の面からまだ実用化には至っていない。2022年度は近年注目されている多様体上のマルコフ連鎖モンテカルロ法の理論を応用することで、より効率的な計算法の開発を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は当初計画していなかった数学の未解決問題に直面し、周辺分野の文献調査に時間を要した。これにより、本研究計画の理論を補強することはできたが、一方で計画自体はやや遅れることとなった。また、新型コロナウイルスの蔓延により学会出張が難しかったため、発表の頻度が減少した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の最終年度は転写のオンオフ状態の非マルコフ的な状態遷移を考慮した遺伝子発現の確率モデルの解表示の導出を行い、ベイズ法により実データからパラメータを推定するための高速かつ高精度な計算方法を確立する。近年、効率的なパラメータ探索の方法として、適応型マルコフ連鎖モンテカルロ法(Andrieu and Thoms, Stat. Comput., 2008)やリーマン球面上のマルコフ連鎖モンテカルロ法(Girolami and Calderhead, J. R. Statist. Soc. B, 2011)が報告されている。こうした方法をテストすることで最適な計算法の探索を行う。上記のパラメータ推定法を用いて、大腸菌と出芽酵母から得られた一細胞遺伝子発現データ(公開データ)から転写のオン・オフ状態の遷移確率を推定する。推定したパラメータを両者で比較し、生物学的に解釈することで、どのような遺伝子制御の構造がパラメー タの違いを決定しているかを明らかにする。得られたパラメータの妥当性について、申請者の所属する大阪大学蛋白質研究所細胞システム研究室の実験系メンバーらと議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020、2021年度は新型コロナウイルス蔓延の影響により学会出張が困難となり、旅費の大部分が次年度への繰り越しとなった。2022年度も旅費の計上が困難である場合は、論文関連(英文校正、出版費用)、確率論に関する文献(書籍費等)、解析用PCの購入費に振り分ける。
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