研究課題/領域番号 |
20K14362
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
若生 将史 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (50778587)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 強連続半群 / サンプル値系 / 安定性解析 |
研究実績の概要 |
2021年度は,制御作用素が非有界である無限次元線形サンプル値系を対象とし,非有界摂動に対するロバスト安定性解析について研究を行った.非有界な制御作用素は,偏微分方程式系の境界制御問題を抽象的発展方程式の枠組みで表現する際に必要となる.一般に,制御作用素が入力空間から状態空間への有界作用素であるときに,その制御作用素は有界であるという.これに対して本研究では,状態空間を内包する外挿空間を考え,入力空間から外挿空間への有界作用素として制御作用素が与えられる場合を考えた. また非有界な摂動として,Desch-Shappacher型の摂動を取り扱った.偏微分方程式系の境界条件に摂動が加わった場合,その系を抽象的発展方程式に書き直すと,境界条件の摂動はDesch-Shappacher型の摂動となる.また,個体群動態に関する微分方程式や遅延微分方程式の解析にもDesch-Shappacher型の摂動が用いられることがある.Desch-Shappacher型の摂動が持つ非有界性は,上で述べた制御作用素と同様(状態空間から)外挿空間への作用素であることに由来する. 本研究の困難は,制御作用素と摂動の非有界性が複合的に系のダイナミクスに影響を与える点である.実際,制御作用素の終集合である外挿空間は系の生成作用素に依存するが,その生成作用素は摂動によって変化してしまう.まずDesch-Shappacher型の摂動によって外挿空間が変化しないことを示した.次に,生成作用素のレゾルベントが外挿空間から状態空間への有界作用素であることを利用して,サンプリング時刻間での状態の遷移を表す作用素が摂動によってどのように変化するか解析した.この解析により,Desch-Shappacher型の摂動が十分小さければ,サンプル値系の指数安定性が保存されることを明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も2020年度から引き続き無限次元サンプル値系の指数安定性について研究を行った.2020年度の研究との大きな違いは,制御作用素が非有界である系を考えた点である.また,非有界摂動のクラスも2020年度で扱ったクラスとは異なるものを考えた.本研究課題では,非有界な制御作用素と非有界な摂動が混在する無限次元サンプル値系の指数安定性の解析を具体的なマイルストーンに設定していたが,それを順調に実施することができた.
|
今後の研究の推進方策 |
指数安定性よりも弱い安定性の概念である多項式安定性について研究を行う.多項式安定性は,生成作用素の定義域に初期値を持つ解軌道が少なくとも多項式のオーダーで減衰することを保証する.例えば,波動方程式を「弱い」ダンパを用いて安定化すると,フィードバック系は指数安定にはならないものの,多項式安定にはなることが知られている.元の連続時間フィードバック系が多項式安定であるときに,それを十分小さいサンプリング周期で離散時間化することで多項式安定性が保存されるか議論する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために計上していた旅費を利用できず,次年度使用額が生じた.翌年度分として請求した助成金と合わせて,オープンアクセスとしての論文掲載料や参加を延期していた国際会議のための旅費や登録料として使用することを検討している.
|