研究課題/領域番号 |
20K14368
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研究機関 | 国立社会保障・人口問題研究所 |
研究代表者 |
大泉 嶺 国立社会保障・人口問題研究所, 人口構造研究部, 主任研究官 (80725771)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地域間移動の少子化への影響は20代まで / 30代以降は都市部の出生率の影響が大きい / 一般化レスリー行列の安定例分布の数学的構造の解明 / 0歳繁殖価の数学的構造の解明 |
研究実績の概要 |
2020年度は,研究計画通り2015年および2010年の国勢調査と人口動態統計等の政府統計を用いて一般化レスリー行列モデルの構築を行った.その際先行研究に加え固有ベクトルに関する定理を二つを証明する事が出来た.このことにより,地域間移動を伴う一般化レスリー行列モデルだけでなく,様々な既約非負行列モデルのフロベニウス根に関する固有ベクトルの持つ数学的構造が行列の成分によって表現出来る事が明らかになった.また,一般化レスリー行列モデルが持つタイプ別基本再生産数という指標と固有ベクトルとの関係も明らかにした. この定理により,少子化と人口減少を迎える日本の地域間移動および地域ごとの出生率の影響を考察する上で繁殖価と安定年齢分布の構造が明らかになり,感度の構造が明確になった.その結果20代までは,大都市から出生率の高い地域への移動が人口減に及ぼす影響が大きく,30代以降は都市部の出生力低下が人口減への影響が大きい事が分かった.この構造は2010年と2015年との比較においても概ね同じ構造をしており,少子社会の持つ特徴の一つと考えられる.これらについては,(1)大泉嶺「日本の人口減少の数学的構造~地域間移動と出生力差が示す人口動態への定量的影響~」第72回日本人口学会年会 埼玉大学 口頭発表、企画セッション(企画者)(令和2年11月14日~同月15日)及び,(2)大泉嶺 「Analysis and Theory Construction of Society with a Declining Population Using General Leslie Matrix Models」2020年日本数理生物学会年会 名古屋大学 口頭発表(令和2年9月20~同月22日)において報告を行っている.また,この成果は論文として現在学術ジャーナルに投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題であった,固有ベクトルの表現について初年度で解決出来たことは進捗状況を好転させたといえる.一般化レスリー行列に関する基本的な数学理論は1986年に登場しているが,その際,0歳繁殖価と0歳都道府県分布に関しては存在のみが証明されていた.本研究ではこれらの値を行列の成分と固有値によって表現出来る事を証明し,表現定理として纏められたのである. 数値計算等のプロトコルは殆ど完成し,論文執筆に至る事が出来た.市販されている数値解析ソフトは行列の具体的な成分を与える事によって,具体的あるいは近似的に固有システムを計算できる.重要な点は,それらの数値が元データとどのように連関しているかを解析する事である.前出の定理の証明によって具体的な関係性が示す事が出来た.また,政府統計のデータをモデルに使う際,様々な調査期間の違いによるずれが生じる.しかし,調査間隔の長い国勢調査をベースとした5年毎の離散時間モデルとしてデータを統一する事で,データをモデルに変換する一連の作業をプログラムかする事が出来た. 2021年の国勢調査の公表や他の政府統計の公表が順当に公表されれば,同様の解析を行うことが出来る準備は概ね整っている.只,COVID-19の流行、緊急事態宣言など自粛要請やweb会議への切り替え等で,共著者や研究協力者との打ち合わせに多少の支障が出たことは否めない.感度分析を行う上での数学的道具は既に揃ってはいるが,今後理論としての発展を考えると十分な議論がコロナ禍で行われたかというと一抹の不安は残るところである.一方で,2015年の国勢調査において東日本大震災の影響はあるもののコロナとは無関係な為当初の計画通り解析には影響が出なかったと言える.
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今後の研究の推進方策 |
2020年国勢調査の公表と人口動態統計や完全生命表が公表されれば引き続き,最新年の感度分析を行う予定である.特に解析手法に関しては現在投稿中の論文が出版されればその手法の多くを最新の結果に使うことが出来るので,より長期的な日本の人口ダイナミクスの分析が出来るものと考えている.2015年のデータにおいては東日本大震災の影響が東北地方の死亡率等に影響を与えたが,2010年のデータとの比較を行うと少子化社会の構造に大きな影響を及ぼしたとは言い難い.一方、2020年の各種調査はコロナ禍で行われたたため,この影響と思われる出生・移動・死亡の特異な変動が出ているか注意を払う必要がある. これらが過去の解析と比べ,解析結果に顕著な違いを見せた場合,これらの影響を評価する方法を議論する必要が出るからである. また,韓国などのデータもあるので国際比較をして日本固有の現象と他国共通の普遍的な感度の構造を調べる予定である.韓国においてもソウルなどの大都市への人口集中の構造が感度に反映されそれが日本の構造と共通な点が多ければこれらは,少なくとも東アジアに見られる共通も構造である可能性がある. このようにして,中央アジア,欧米,アフリカ諸国など利用可能なデータを元に人口動態の感度による構造を調べていきたい. 一方,行列モデルによる解析の進捗状況が順当だった事に,関連し∞次元に当たる偏微分方程式モデルの解析を進める予定である.研究計画書の中で言及したように,本研究は元々,親の状態が子の初期状態を決める放物型偏微分方程式の問題が発端である. この問題は第2種フレドホルム方程式の解を用いて表現が出来るが,その解と本研究で証明した定理は有限次元において一致する. これを∞次元に拡張する事が出来れば都道府県のような決められた離散状態だけでなく,体重やサイズなども扱う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
covid-19発生に伴う緊急事態宣言や出入国制限のため,予定していた国内外の学術会議が中止, またはweb切り替えになった. 結果的に旅費の支出が無く,予算を繰り越すことになった.また,新型コロナ感染症対策のため不要不急の外出を制限し,テレワーク等に切り替え在宅業務を中心とした研究環境となったため,施設設置を必要とする物品などに関しての使用を先送りにし,在宅でも出来る範囲の理論研究に軸足を置くことにした. 今後出張に関しては不透明な状況が続くと考えられるが,出入国制限の解除、緊急事態宣言などの自粛要請が解除された場合積極的に通常のセミナー等に参加する予定である.繰り越し分の一部はこれに当てる.また研究の進捗状況や引き続きwebを利用した研究活動を想定してリモートワークの環境作りに繰り越し分を使用するつもりである.大容量や計算時間がかかり,大型のコンピュータが必要となる研究・解析に関しては今後コロナ感染症の流行と政府等公的機関の指示が緩和されたタイミングを計り,繰り越し分を使い迅速に購入と解析を進める予定である.
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備考 |
更新されていない
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