研究実績の概要 |
本研究課題の研究目的は古典計算機では表現できない体積則スケーリングを示すエンタングルメントエントロピーを持つ量子状態から得られる観測量の期待値を、古典計算機上で表現できる面積則スケーリングを示す量子状態のサンプリングから求める方法を確立、効率化することである。初年度は純粋状態として記述しようとすると体積則スケールエンタングルメントエントロピーを要する有限温度量子系の、観測量の期待値を効率的に低エンタングル状態のサンプリングとして記述する方法について主に研究した。研究成果としては、従来手法であるMarkov連鎖Monte Carlo法での自己相関問題の解消方法の提案 (S. Goto and I. Danshita, Phys. Rev. Res. 2, 043236) 、 Markov連鎖を使用しない実用的なサンプリング手法の提案 (S. Goto et al., arXiv:2103.04515) 、そして長距離相互作用がある系や二次元系を調べるために必要となる一次元を超えた時間発展に必要なTrotterゲートの自動生成手法の確立 (M. Kunimi et al., Phys. Rev. Res. 3, 013060) が挙げられる。 今回提案したサンプリングの効率化はそれぞれメカニズムが異なるが、あえてエンタングルした状態を用いることでエンタングルした状態を導入したコスト以上のサンプリングの効率化に成功したという共通点を持つ。このエンタングルメントを利用した戦略は他のサンプリング手法の効率化にも有効である可能性がある。また有限温度状態のサンプリングからMarkov連鎖を取り除くことに成功した。このことはこの手法の並列効率がほぼ理想的なものになり得ることを意味している。
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