研究課題/領域番号 |
20K14378
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
三澤 賢明 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (00823791)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / 第一原理計算 / ニューラルネットワークポテンシャル / 衝撃圧縮 / 構造変化 |
研究実績の概要 |
本年度は主に(1)衝撃圧縮下におけるシリカの弾性および塑性変形に適用可能な人工ニューラルネットワーク原子間ポテンシャルの構築方法の検討,(2)半導体硫化銀の延性の起源に関する第一原理分子動力学的研究 に着手した. (1) 古典的分子動力学法の枠組みにおいて第一原理計算水準の計算精度および汎用性を実現し得る人工ニューラルネットワーク(ANN)ポテンシャルを,固体材料における衝撃圧縮挙動のシミュレーションに適用する試みを行っている.本年度は,エネルギー,力,圧力それぞれに対する学習の重み付けがポテンシャルの性能にどのように影響するのかを詳しく調べた.その結果,衝撃圧縮の振る舞いの再現精度を向上するためには,特に圧力の学習に重きを置くことが重要であることを見出した. (2) 硫化銀(Ag2S)は半導体でありながら室温において金属のような延性を示すことが知られており,将来のフレキシブルな半導体デバイスへの応用が期待されている.本研究では,半導体Ag2Sに対する単純剪断変形の第一原理分子動力学シミュレーションを行うことで,優れた機械的性質の起源を微視的な観点から調べている.シミュレーションの結果,剪断応力による結合の開裂に伴い,半導体Ag2S中の特定の結晶面で集団的な原子のスライドが生じ,結晶構造が復元する振る舞いを見出した.この構造復元機構が半導体Ag2Sの延性的性質の発現に関与していると考えられる.また,この構造復元機構がはたらくためには半導体Ag2S中の硫黄副格子が高い対称性を有していることが重要であることが示唆された. また,上記の他にヨウ化鉛メチルアンモニウムにおける水和反応の微視的機構に関する研究,およびカルサイト表面における有機分子の吸着構造に関する研究に取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衝撃圧縮挙動の再現精度向上のためのニューラルネットワークポテンシャルの学習条件を明らかにすることに成功した点や,半導体Ag2Sにおける剪断変形挙動の第一原理分子動力学シミュレーションを実施し延性変形機構を明らかにした点など,当初の計画を順調に達成している.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度はこれまでに蓄積したデータをまとめ,衝撃圧縮下におけるシリカの弾性および塑性変形に適用可能な人工ニューラルネットワーク原子間ポテンシャルの構築方法の検討,および導体硫化銀の延性の起源に関する第一原理分子動力学的研究で得られた結果の論文化を進める.並行して,これまでのANNポテンシャル関連のテーマで得られた知見を踏まえ,ヨウ化鉛メチルアンモニウムにおける水和反応に対するANNポテンシャル構築に取り組む.さらに,衝撃圧縮下における構造解析および硫化銀の剪断変形シミュレーションで培った経験を固体地球科学分野に応用し,マントル構成物質における剪断応力誘起構造変化の微視的機構の解明および深発地震発生機構の検討に取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,外部機関を訪問しての研究打ち合わせが実施できなかったことに加え,当初出席を予定していた国内学会・国際会議等がすべてオンライン開催となったため,旅費に未使用額が生じた.加えて,研究の実施のために主に利用している共同利用計算機の利用希望者が想定よりも多く,当初予定していたリソース数を確保できなかったために,その他の経費に未使用額が生じた. 使用計画:国際会議への出席や共同研究者との研究打ち合わせに使用する.また,計算機の利用にあたってはリソース割り当てに制限のある固定ノードプランではなく,共有プランに重点を置くことで確実な計算リソースの確保を図る.加えて,論文出版の際に可能な限りオープンアクセス費用を支払うことで研究の波及効果の拡大を図る.
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