研究課題
我々は、高強度な光によって駆動される物質中の電子ダイナミクスを微視的な理論計算により解析することで、光によって電子構造制御し物性を改変することを目指して研究を進めている。当該年度では、光励起された磁性体の電子構造の変化を調べるため、時間依存密度汎関数理論(TDDFT)に基づく第一原理計算により、レーザー励起された固体Co, Niの過渡的な光学応答を解析した。その結果、レーザーにより電子加熱により磁性が消失し、内殻電子の交換分裂が減少することによって内殻励起に対応する吸収端付近で光学応答変化が起こることが明らかとなった。この知見を応用し、光によって駆動された磁性体のスピンのダイナミクスを過渡的な光学測定によって調べる方法論を提案した。さらに当該年度では、THz領域におけるグラフェンからの高次高調波発生を量子マスター方程式により解析した。従来の研究では、THz領域におけるグラフェンからの高次高調波発生は、熱力学的模型に基づく電子系の温度上昇に起因するものと理解されてきた。それに対し本研究では、THz光が駆動する電子系のダイナミクスを時間領域で数値シミュレーションすることにより、光が駆動する電子励起と固体内での電子緩和の競合によって生じる非平衡定常状態がTHz領域の高次高調波発生において重要な役割を果たすことが明らかとなった。このような成果は、光によって物質の性質を超高速に制御するための技術の基盤となるものである。
2: おおむね順調に進展している
第一原理計算に基づく解析により、光励起された磁性体の電子構造の変化、及びその微視的起源を明らかにした。また、散逸効果を考慮した量子マスター方程式により、THz領域におけるグラフェンからの高次高調波発生の微視的機構を明らかにした。
引き続き、時間依存密度汎関数理論に基づく第一原理計算と量子マスター方程式に基づく模型計算を組み合わせることで、光によって電子構造を改変し、物性を制御する方法論を構築していく。また、実験グループと協力することで、現実の物質における光による電子構造・物性制御の実現に向けて研究を進めていく。
現地参加予定だった日本物理学会年次大会(2022/3/15-19)が急遽オンライン開催となったため。次年度の日本物理学会参加の際に使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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