研究課題/領域番号 |
20K14387
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
加藤 宏平 大阪市立大学, 南部陽一郎物理学研究所, 特任助教 (60793586)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 冷却原子気体 / フェッシュバッハ共鳴 / 少数多体系 / 分子会合 / 箱型トラップ |
研究実績の概要 |
本年度は冷却原子集団生成に用いる実験装置の故障(PCの異常動作による、磁気トラップコイルの焼損)があり、発表に直接結びつく実験結果は得られなかった。従って実験装置の復旧・再構築が必須となった為、この機会に実験装置の抜本的改良に取り組む事にした。既に新しい磁気トラップコイルの設計は完了しており、現在再構築の最中である。改良により、原子数において一桁程度の改善や日々の調整頻度の軽減、光学アクセスの改善等を見込んでいる。復旧・改良作業に並行して、本研究計画の特色である、二次元箱型トラップの生成に用いるレーザー光源の開発に取り組んだ。これまで半導体レーザーを光源に用いていたが、使用するレーザー波長(755 nm)が発振波長の端であり、かつテーパー型増幅器の空間モードが余り良くない事もあって想定よりも出力が得られない事が分かった。目標である二次元少数分子の生成には、原子同士の散乱が二次元的になるほど強い閉じ込めが必要となる。種々の光源を検討した結果、アレクサンドライト結晶を用いた半導体レーザー励起固体レーザーが有望であることが分かった。具体的には結晶の特性とレート方程式により発振閾値を見積もり、励起レーザーの出力から最終出力を見積もった。また、結晶の熱レンズ効果を考慮してレーザー共振器の設計を行った。最大出力数W程度になる予定であり、これは従来の出力の10倍程度である。現在は実際の製作に取り組んでおり、これを用いて二次元少数分子の生成を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新しいカリウム・ルビジウム混合冷却原子集団生成装置の設計は、まず安定的に稼働する事が重要である。日々の調整を容易にする為には、特にカリウム原子の原子数の増大が必要であり、原子源に二次元磁気光学トラップを採用するなどの改良を行った。また、カリウムとルビジウムが互いに光支援散乱によって減少するのを防ぐために、再捕獲には暗スポット磁気光学トラップを採用した。これにより、カリウムとルビジウムを独立に最適化でき、かつ密度の上昇により最終的な原子数も増大させることができる。蒸発冷却用の磁気トラップコイルは分子生成の実験が行いやすいように、レーザーやラジオ波用アンテナのアクセスを重視して磁場輸送型のトラップを採用した。設計した部品が納品された為、現在組み立て中である。固体レーザーの開発においては、発振閾値の見積もりや共振器の設計に応じて、必要な励起用レーザー、共振器用ミラー、結晶を発注し、こちらも納品されたので、2021年度に実際にレーザー発振させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず超高真空装置の部品も交換が必要であるので、部品が届き次第、超高真空装置の再構築を行う。その際二次元磁気光学トラップの軸方向冷却の為のミラーを導入することで更なる原子数の増大を目指す。その後、二次元磁気光学トラップ、暗スポット磁気光学トラップの構築を行い、次いで新しい磁気トラップによる原子集団の蒸発冷却を行う。種々の改良により、原子数は1桁程度改善する予定である。並行して固体レーザーの構築を行う。最終的には蝶ネクタイ型の共振器を採用する予定であるが、結晶の性質を確定させる為に最初は直線型の共振器を構築して予備実験を行う。開発したレーザーを用いて閉じ込めを強化し、二次元分子生成を実現する。また分子生成においては、ラジオ波会合が有効であるが、できるだけ強いラジオ波の方が素早く会合ができ、原子・分子数の減少を抑制することができる。従ってその為の共振アンテナを作成し、実際に分子を生成する。二次元箱型トラップでは、均一・低密度な原子集団を用意できるため、分子生成の効率の上昇が期待できる。実際に箱型トラップ中で分子を生成し、高効率な分子生成を確認する。これらの実験を通して強い閉じ込めトラップ中の少数分子の性質やエネルギー構造を明らかにする。
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