研究課題/領域番号 |
20K14389
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
國見 昌哉 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 特任研究員 (00844820)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 冷却原子系 / Rydberg原子 / 量子スピン系 / 非平衡ダイナミクス / 量子シミュレーター |
研究実績の概要 |
本年度は量子スピン系に対する準古典近似であるdiscrete truncated Wigner近似(DTWA)の性能評価に関する研究を行った。DTWAは実時間ダイナミクスを計算できる手法であり、大きなシステムサイズ、高次元、長距離相互作用を取り扱うことのできる手法である。しかしながら、近似が有効な時間スケールが一般に短いという問題がある。加えて、この時間スケールは系の詳細や初期条件等に依存するため、これを評価するのは一般には困難であり、使用する際に注意が必要であるという問題があった。本研究では、DTWAの近似が妥当な時間スケールを評価する手法の提案を行った。具体的にはBBGKY階層方程式を用いて、DTWAの高次補正を計算し、その差を比較することで近似の妥当な時間スケールを評価する方法である。典型的なスピン模型であるイジング、XY、Heisenberg模型に対しこの手法を適用し、リーズナブルな結果を得た。
また、DTWAの妥当な時間スケールを評価する際にDTWAを用いてレニーエンタングルメントエントロピーを計算する新しい手法の提案もあわせて行った。DTWAでは1サイトや2サイトのレニーエンタングルメントエントロピーは既存の手法で計算が可能であったが、大きなサイトのレニーエンタングルメントエントロピーを計算することはできなかった。本研究ではこの新手法の開発により、DTWAで大きなサイトのレニーエンタングルメントエントロピーを計算することが可能になった。
本研究結果はPhysical Review Research誌で出版された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の欄で述べたように、DTWAの性能評価に関する研究を行い、結果を得た。 DTWAは本研究計画の中心になる手法であり、性能に関する知見を得たことは今後の研究をより効率よく進めることができるようになったと言える。よって、本研究課題はおおむね順調に研究が進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では近年注目を集めている空間的に線形な依存性を持つポテンシャルを印加した時に生じる局在現象であるStark many-body localizationの研究や、kineticな拘束条件により生じるHilbert space fragmentationの研究に取り組む予定である。 これらの研究はほとんどが1次元系で行われているため、高次元系においてこれらの現象が生じるのかどうかを研究する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究に使用するソフトウェアを購入する予定だったが、これが必要となる段階まで研究が進んでおらず購入を先送りしたため次年度使用額が生じた。この分の予算はそのソフトウェア購入費や、文献購入、研究会参加費などに使用する予定である。
|