本研究では、近年注目されているRydberg原子系を用いた量子シミュレーターの理論研究を中心に行った。初年度(令和2年度)は量子スピン系に対する準古典近似であるdiscrete truncated Wigner近似(DTWA)法の性能評価を行った。具体的には性能評価方法の提案とDTWA法でレニーエンタングルメントエントロピーを計算する手法の提案を行なった。
令和3年度は初年度で得た知見を生かし、分子科学研究所大森グループのRydberg原子を用いたRamsey干渉実験を説明するためにDTWA法を用いた数値シミュレーションを行った。DTWA法は短時間領域の実験結果のみ再現できることがわかった。また、放物型トラップポテンシャルを有する1次元Bose-Hubbard模型の非エルゴード的なダイナミクスの研究を行った。オンサイト相互作用エネルギーがホッピングエネルギーに比べて十分大きい時に非エルゴード的、すなわち長時間時間発展しても熱平衡状態に至らないということは一様系ではすでに知られていた。本研究では実験を念頭に置いたトラップ系の数値シミュレーションを行い、実際の実験でも十分非エルゴード性が観測可能であることを示した。
最終年度ではDzyaloshinskii-Moriya(DM)相互作用を有する量子スピン模型をRydberg原子系で実現する方法についての提案についての研究を行った。具体的には2光子Raman遷移とユニタリー変換を利用し回転座標系でDM相互作用を持つハミルトニアンを作るという方法を提案した。また、DM相互作用項と横磁場項のみからなるDH模型と呼ばれる模型の解析を行い、量子多体傷跡状態が出現することを解析的に示した。
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