本研究では、自発的パラメトリック下方変換(SPDC)で生成された光子の識別不可能性と、励起レーザの繰り返し周波数との関係を明らかにし、GHzオーダの繰り返し周波数で独立に発生させた光子対間の高明瞭度な二光子干渉を観測することを目標に研究を行った。令和3年度は、繰り返し周波数3.2GHzの励起レーザを用いたSPDCにより、光子対を独立に2対生成し、それらの間の高明瞭度な二光子干渉を観測した実験についての論文を学術雑誌Optics Expressに発表した。本論文では、独立に生成した光子を用いた二光子干渉実験における繰り返し周波数の世界記録を更新し、0.88±0.03という古典限界を大きく超える明瞭度を報告した。さらに、励起レーザの繰り返し周波数と光子検出器の時間分解能が光子対の周波数領域における識別不可能性に与える影響を理論的にモデル化し、今回の実験結果を定量的に説明することに成功した。 また、別の実験として、二光子干渉を利用して単一光子にエンコードされた量子状態を推定する新手法を提案し、本研究で構築した光子対源を利用して実証実験を行った。二光子干渉で得られる干渉図は2つの入力光子がどれだけ近い量子状態にあるかについての情報を含むため、一方の光子(プローブ光)の量子状態が既知の場合、もう一方の光子(シグナル光子)の量子状態に関する情報を得ることができる。この性質を利用することで、シグナル光子の量子状態の推定(いわゆる量子状態トモグラフィ)を実行することができる。本提案手法では、プローブ光を切り替えることで、様々な物理自由度における量子状態トモグラフィが実施できる。また、受動的な光学素子だけで測定系を構築できるため汎用性が高い。実証実験では、光子の偏光状態の推定を二光子干渉を用いて実施した。その結果、今回提案する手法が光子に対して直接射影測定を行う従来の手法と遜色ない精度での状態推定ができることを実証した。
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