研究課題
電荷・スピン結合系や自由電子系における非平衡ダイナミクスの解析を進め,主に以下の成果が得られた。(1)これまで,空間反転対称性を持つ三角格子上の遍歴磁性体に対して直線偏光を照射することでスピンカイラリティを持つ非共面的・非共線的磁気構造が現れることを示してきた。円偏光を照射した場合には偏光の左右に応じてスカラーカイラリティの符号が制御され,光強度に対して非摂動的(閾値的)・非単調的振る舞いを示すことが明らかになった。さらに,フロケ・グリーン関数法を適用して光照射下の各磁気秩序状態におけるエネルギーや運動量分布関数の解析を行い,フロケバンド間の混成や平衡状態とは異なる運動量分布関数が上記の振る舞いに関係していることを示唆する結果を得た。(2)昨年度までに電子波束を光電場で駆動することでエネルギーバンド構造を反映したエコーが発生することを示し,この成果をまとめた論文がPhysical Review Research誌に掲載された。これまでは電子波束が共鳴的に光励起される場合を取り扱っていたが,近年盛んに研究が進められている高次高調波発生においては電子波束が量子トンネル効果によって非摂動的に励起されるものと考えられている。この点に注目して,トンネル励起された電子波束を光駆動した際の実時間ダイナミクスの解析を行った。相対論的ディラック粒子に関して過去の先行研究で得られていた解析的な表式をバンド絶縁体に拡張することに成功し,光電場波形を適切に最適化することでフーリエ限界に迫るサブフェムト秒パルスが固体から発生しうることを示した。
2: おおむね順調に進展している
上記成果は日本物理学会やアメリカ物理学会等で発表し,一部は論文投稿中である。当初から研究してきた遍歴磁性体のみならず,通常のバンド絶縁体等においても光駆動によって興味深い現象が生じることが明らかになった。これらの知見をもとにさらなる研究の進展が見込まれる。全体の計画に照らして,おおむね順調に進展している。
主要な結果は得られているが,今後は学術論文の投稿・出版に向けてパラメータの探索やより高い数値精度での計算を行う。また,世界的な感染症の拡大により当初計画よりも発表や議論の機会が制限されたため,補助事業期間を延長することで成果発表の機会を確保する。
COVID-19の感染拡大を受けて多くの国内・国際会議がオンラインでの開催となったため,当初計画よりも旅費が大きく減少した。これは次年度の旅費・物品費等に充てる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件) 備考 (2件)
Physical Review Research
巻: 4 ページ: 043155
10.1103/PhysRevResearch.4.043155
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/12/press20221201-03-echoes.html
https://www.tohoku.ac.jp/en/press/predicting_new_quantum_echoes.html