研究課題
本申請課題では精密に制御した圧力下においてはしご型鉄系化合物の超伝導性と極性の研究を行うことを目的としている.はしご型鉄系化合物の基底状態は,擬一次元的な結晶構造に起因した強い電子相関効果によって反強磁性絶縁体となる.なかでもBaFe2Se3は圧力誘起超伝導性を示すことから,多軌道強相関電子系における超伝導性を研究する格好の舞台である. 本申請ではBaFe2Se3が示す低対称なブロック型の磁気構造に着目する.最近申請者はBaFe2Se3における光の第二高調波発生の測定によって,低対称なブロック型の磁気構造に由来する極性結晶構造への相転移が400 Kにおいて生じていることを明らかにした.そこで2020年度は,BaFe2Se3の温度-圧力-磁場の三元相図を作成することによって,(1)圧力誘起超伝導相が結晶の極性を有しているか,(2)空間反転対称性の破れた超伝導体に固有な大きな臨界磁場を示すか,を明らかにすることを目的として,BaFe2Se3の純良単結晶育成および高圧・低温・高磁場中における電気抵抗率測定を実施した.その結果,400 Kの極性相転移が4 GPaまでの圧力印加によって抑制され,非極性構造へと構造相転移を示すことを明らかにした.さらなる加圧によって圧力誘起超伝導転移を観測した.今後は超伝導体積分率を評価するために圧力下磁化測定を実施すると共に,光交流法による比熱測定を実施するための測定系を構築する.
2: おおむね順調に進展している
対象物質の一つであるBaFe2Se3の単結晶を育成し,圧力下電気抵抗率測定を実施することで20 GPaまでの温度圧力相図を作成した.極性相転移の圧力推移をトラックすることができたため,本年度の目標は達成することができた.
2020年度の研究によってBaFe2Se3の極性相転移が圧力下で低温に抑制されることを明らかにしたとともに圧力誘起超伝導を観測した.しかしながら超伝導転移にともなう電気抵抗率の減少は非常に小さかった,そのため,超伝導体積分率を明らかにするために圧力下磁化測定を実施するとともに,次年度以降の実験のために光交流法による比熱測定系を構築する.
新型コロナウイルスによる実験活動の制限によって購入予定の高額装置の導入を次年度に持ち越したため.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件)
Physical Review Research
巻: 2 ページ: 043293
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