研究課題
本申請課題では精密に制御した圧力下においてはしご型鉄系化合物の超伝導性と極性の研究を行うことを目的としている.はしご型鉄系化合物の基底状態は,擬一次元的な結晶構造に起因した強い電子相関効果によって反強磁性絶縁体となる.なかでもBaFe2Se3は圧力誘起超伝導性を示すことから,多軌道強相関電子系における超伝導性を研究する格好の舞台である. 本申請ではBaFe2Se3が示す低対称なブロック型の磁気構造に着目する.最近申請者はBaFe2Se3における光の第二高調波発生の測定によって,低対称なブロック型の磁気構造に由来する極性結晶構造への相転移が400 Kにおいて生じていることを明らかにした.そこで2021年度は,これまでに作成したBaFe2Se3の温度-圧力-磁場の三元相図に基づいて,(1)圧力誘起超伝導相近傍の磁気輸送特性およびホール効果の測定,(2)超伝導相の体積分率,を明らかにすることを目的として,BaFe2Se3の高圧下電気抵抗率・ホール抵抗率・磁化率測定を実施した.(3)新たな物質系としてBaFe2(S1-xTex)3の合成に成功した.その結果,BaFe2Se3における圧力誘起超伝導相近傍においてキャリアの符号が反転することを明らかにした.また,圧力誘起超伝導が観測される圧力領域である10 GPaまで測定可能な磁化測定用高圧セルを構築し,テスト試料として弱強磁性体CaIrO3の磁化の圧力依存性を測定した.今後は超伝導体積分率を評価するためにBaFe2Se3の圧力下磁化測定を実施する.
2: おおむね順調に進展している
対象物質の一つであるBaFe2Se3の単結晶に対して,5端子法を用いた圧力下電気抵抗率・ホール抵抗率の同時測定を実施することで20 GPaまでの磁気輸送特性を明らかにした.また,圧力下磁化測定用の高圧セルを整備し10 GPaまでの圧力下磁化測定を実現することができたため,本年度の目標は達成することができた.
2021年度に構築した圧力下磁化測定装置を用いてBaFe2Se3の圧力下磁化測定を実施し,超伝導体積分率を決定する.また,新たに合成したBaFe2(S1-xTex)3に対して電気抵抗率・ホール抵抗率の測定を行うことでモット転移近傍の量子臨界現象の研究を行う.発展として本研究で構築した20 GPaまでの5端子電気抵抗率・ホール抵抗率測定系を他の強相関電子系化合物に適用し,バンド幅制御型超伝導転移の探索を行う.
国際学会参加のための旅費を計上していたが,該当の学会がオンライン開催され旅費が不要となったため次年度使用額が生じた.次年度以降の海外旅費もしくは消耗品経費として支出する.
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Physical Review B
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