本研究課題では2次元物質における反強磁性相に着目し、その界面におけるスピン効果を対象としている。特に2次元反強磁性体のもつ高い結晶性と、そのヘテロ界面を利用することでその素励起や秩序パラメータとどのように相関するかを追及している。 2022年度においても2次元反強磁性体相を持つ物質を、プラチナと接合し、その界面の輸送現象を通じてスピン物性を検出する研究を引き続き推進した。これまでの実験から、面内磁場下の伝導度の角度依存性が、特徴的な振動を示すことを明らかにしている。特に、その振動位相から、強磁性相ではなく、反強磁性相において期待される信号と合致し、2次元物質のない試料を参照試料として行った同様の実験とは、特徴的な信号は有意に異なることを明らかにしている。一方で、温度依存性と磁場依存性を詳細にみると、反強磁性では解釈しきれない特徴を有することが、複数の試料から明らかになった。そこで、反強磁性秩序を一般化し、磁場印可方向に直行する量子化軸を有する、という概念により、磁気秩序も磁気超格子も存在しない場合を理解できることを明らかにした。これは、スピン秩序が壊れたと相においても一定の信号を得ることができる、重要なプローブを同定したことを意味している。スピン秩序が壊れた相に関して、引き続き共同研究者との議論を精力的にすすめた。この概念をさらに進めて、別の物質系において、従来電気的に検出することが難しかった磁気状態の検出についても進めた。また、新たな共同研究者と、そのような試料の光学的な評価も行った。 2次元反強磁性体を舞台として、電気的検出手法を駆使することで、界面にけるスピン効果を確実にとらえることに成功している。予想された反強磁性相の効果を超えて、新しい現象をみつけ、新しい概念を導入することで理解することができた。その枠組みを複数の物質に援用することで新奇な物性開拓を行うことができた。
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