本研究課題はパルス強磁場中精密測定装置の開発をベースにし、開発された装置を使用して有機伝導体の強磁場新奇量子相の研究を目標としている。2020年度は測定装置開発を従点的に行い、2021年度では開発した装置系を活用して幾つかの有機物の強磁場測定を行い、2022年度は最終的な測定環境構築を行なった。 本課題ではFFLO状態と呼ばれる強磁場中で発現する非従来の対形成機構をもった超伝導状態を測定対象物性の一つとしている。FFLO状態の発現には強磁場だけでなく、精密な磁場角度制御や電子系の純良性などが求められるため実験難度が高く、更にFFLO状態への転移は小さなエントロピー変化しか示さないために検出が容易ではない。2020年度に開発した多目的の精密角度制御パルス強磁場用測定プローブを用いて複数の測定手法で複数のFFLO候補物質にアプローチすることができるようになった。2021年度、2022年度にはFFLO状態の検出には磁場侵入長や超音波測定などの測定が有効であることがわかっただけでなく、物質間比較からFFLOに重要な物理パラメータの決定ができ、それぞれの成果が論文として出版・投稿されている。また、これらFFLO候補物質は強相関電子系に属しており、バンド幅制御によりMott転移や電荷秩序転移を示す。本課題の研究を行う際に、これら周辺物性の強磁場応答に関してもいくつか新しい知見が得られたため、2022年度以降の他の課題へ発展させることに成功した。
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