研究課題/領域番号 |
20K14407
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北村 想太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40848553)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非平衡 / 強相関系 |
研究実績の概要 |
本研究課題ではモット絶縁体の非平衡定常状態を微視的理論により理解することを目標としているが、本年度はそのための最初のステップとして、(1)強いDC電場中でのバンド絶縁体の非平衡定常状態の研究および(2)モット絶縁体のAC電場に対する応答の研究を主に遂行した。 (1) 絶縁体におけるDC電場によるキャリア生成の過程は非摂動的な効果であり、従来的な線形応答理論とその拡張では記述することのできない現象であるため、たとえ相関効果のない単純なバンド絶縁体であっても、どのような非平衡定常状態が実現するかは非自明な難しい問題である。我々はトンネル確率の複素解析手法と非平衡グリーン関数法を組み合わせて、フェルミオン熱浴中での定常状態を半定量的に計算する公式を導出することに成功した。この定常状態のもとでは熱浴への散逸の強さに応じて電流応答が質的に変化することがわかり、従来的なキャリアの生成確率の議論だけでは定常電流の性質を捉えることができないことが明らかになった。我々はさらにこの理論を反転対称性の破れたバンド絶縁体に適用することで、幾何学位相に由来する非相反な電流応答が現れることを議論した。 (2) モット絶縁体を対象とした微視的理論による非平衡現象の探究にも同時に取り組んでいる。非摂動的な効果が重要なDC電場の場合と比べると、AC電場駆動の場合は理論的な取り扱いが比較的容易であるので、そのことを利用してモット絶縁相における光学応答を常磁性的である場合と、(反)強磁性的である場合のそれぞれについて解析を進めている。また、電場によってモット絶縁体の磁気的な性質を制御する研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モット絶縁体、特に特異な振る舞いをするルテニウム酸化物の性質を解明していく部分についての進展は今年度はあまりなかったが、その反面、次年度以降進める予定であった定常電流を伴う非平衡定常状態の記述に関して大きな進展を得ることができた。特に、理論的な取り扱いの難しいDC電場中の非摂動効果を取り入れた計算に成功したため、最終的な目標の達成という観点からは順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
もともと次年度に予定していた課題が先に大きく進展したので、次年度はモット絶縁体の非平衡状態における動的な性質の研究にエフォートを割く予定である。特に摂動的な取り扱いが可能なAC電場への応答を中心に、現在進めている課題を進展させてモット絶縁体の非平衡物性の理解を進展させたい。 また、本年度に構築した非平衡定常状態の理論は一般の量子多体系に応用可能な非平衡グリーン関数法をベースにしているため、現時点ではバンド絶縁体にしか適用できないものの将来的には強相関系への定式化の拡張が可能であると考えている。長期的には次年度の課題の進展状況に応じて定式化の拡張に取り組んでいくことで最終目標の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍のために研究会がすべてキャンセルまたはオンライン開催となったため、研究会関連の出費は大会参加費のみで出張旅費を使う機会がなかったため次年度使用額が生じた。 状況が好転した場合には海外出張を積極的に行うことで研究成果を広く世界に発信する。
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