研究課題/領域番号 |
20K14408
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 祥子 東京大学, 低温科学研究センター, 特任助教 (00726317)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第2高調波発生 / 超伝導 / テラヘルツ / 電流 |
研究実績の概要 |
電流の流れる方向によって電気抵抗が異なる非相反電荷輸送現象は、空間・時間反転対称性がともに破れた状態に特徴的な現象である。近年、転移温度付近の超伝導体において巨大な非相反応答が観測され、超伝導秩序変数の対称性の破れとの関連から注目を集めている。本研究では、転移温度以下の超伝導体に、電流によって人為的に空間・時間反転対称性の破れを導入し、テラヘルツ帯における第2高調波発生を観測することを目的とする。 前年度は、空間反転対称性の破れていない超伝導体に電極を付け、直流電源を用いて直接電流を注入し、磁束量子に起因する第2高調波発生を観測した。それを踏まえて本年度は、空間反転対称性が破れた超伝導体に対して実験を行った。まず、明示的に電流を流さずに狭帯域テラヘルツ波パルスを照射したところ、その時点で既に第2高調波が発生していることが判明した。磁場の印加や磁束量子の導入にも影響されず、超伝導秩序変数の対称性の破れに由来する可能性があったので、偏光依存性を調べてみたところ、ほぼ平坦であり、試料の対称性の破れに由来する信号ではないことが判明した。さらに、入射テラヘルツ電場を反転させる実験を行ったところ、第2高調波の電場も反転する「相反的」な振る舞いが観測され、対称性の破れがテラヘルツ電場自身に由来することが明らかになった。試料の光学伝導度の虚部が発散的に増大する低周波・低温側で顕著になることから、テラヘルツ波パルスによって誘起された過渡的な超伝導電流が第2高調波を発生させていると考えられる。一方、試料の対称性に由来する非相反第2高調波発生は、今のところ観測されていない。これは、おそらく、マルチドメインの試料に対して、ドメインサイズの100倍程度の波長のテラヘルツ波を用いて実験していることが原因で、それぞれのドメインの効果が相殺していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画とは異なる方法だが、テラヘルツ波パルスに誘起された過渡的な超伝導電流による反転対称性の破れに由来する第2高調波発生を観測した。また、非相反成分の抽出方法として、これまで超伝導電流の反転による変化を用いて来たが、新たに、照射テラヘルツ波パルスの偏光回転を用いた方法を開発した。これによって、試料の環境を変化させずに、テラヘルツ応答の非相反成分を高精度に観測することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、電極を用いた直流電流と、テラヘルツ波パルスによる過渡的な超伝導電流が引き起こす超伝導体のテラヘルツ第2高調波発生を観測してきた。次は、磁場で誘起した渦電流の利用を計画している。電流注入によって高調波発生を起こすという原理実証だけでなく、そこからどのような情報が引き出せるかに着目して、超伝導体の種類による違いを調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に測定した試料において、相反的な第2高調波発生という想定していなかった現象が生じ、当初予定していた試料に対する実験を次年度に繰り越すこととなったので、補助事業の延長が必要となり次年度使用額が発生した。
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