本研究では、酸素分子磁性体におけるスピンと格子の強い相関によって起こる新奇な現象を発見、解明することを目的に、新規酸素分子磁性体を探索するための錯体合成システムを構築する。さらに、磁性の起源に興味がもたれるものに関してはホスト錯体の重水素化を行い、中性子散乱実験を行うものである。 今年度は、昨年度作製し、現地での酸素吸着・脱離試験をクリアした専用のインサートと重水素化された酸素分子磁性体dCPL-1を利用した偏極非弾性中性子散乱実験をオークリッジ国立研究所にて行った。入射・反射中性子を散乱ベクトル方向に偏極するセットアップで行うと、フリップ散乱とノンフリップ散乱によって散乱の磁気成分と核成分を分離して測定可能である。8.2 meVの励起エネルギーをもつ磁気励起に対して本測定を行い、低温ではこの励起が磁気的な成分のみをもつことを発見した。この結果についてまとめて学会で発表した。本件については論文にまとめて近日投稿予定である。一方で、スピンと格子の相関が強いことが期待される高温領域に関しては中性子散乱強度が足りず調べることができなかった。これは来年度の課題とし、今後実施予定である。 また、従来の酸化物磁性体の研究として励起子絶縁体候補物質Pr0.5Ca0.5CoO3の大型単結晶試料を高圧酸素下FZ法にて合成し、オークリッジ国立研究所にて非弾性中性子散乱実験を行い、その結果をまとめて学会で発表した。本件については確認された磁気励起をさらに詳細に調べるためにさらなる実験を行う予定である。
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