研究課題/領域番号 |
20K14411
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
赤城 裕 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20739437)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピン液晶 / スピンネマティック相 / 磁気四重極子 / ダイナミクス / 磁性体 / 輸送現象 / 物性理論 / スキルミオン |
研究実績の概要 |
量子磁性体の古典的極限を考えるとき、個々のスピンをO(3)ベクトルと考えるのが通例であり、スピン1/2の磁性体における通常の磁気秩序に対して、半古典的なレベルで驚くほどうまく記述できる。しかし、S>1/2のような磁性体は「より古典的」であると考えられるにもかかわらず、O(3)ベクトルではその特性の多くを説明することはできない。特に、磁性絶縁体、冷却原子系等において実現の可能性が示唆されている単一サイトで磁気四重極子を持つ状態を記述することはできない。これらの問題に対しては、古典的な極限を別の形でとらえる必要があり、そのために新しいツールが必要である。 そこで我々は、S=1量子磁性体の半古典的特性を正しく記述する新しい方法を確立した。この新しい方法を、三角格子上のS=1 bilinear biquadratic模型の磁気四重極子状態(スピンネマティック状態、スピン液晶状態)に適用し、解析的に求められる古典的低温展開やflavor wave理論と、古典的モンテカルロ法や分子動力学シミュレーションなどの数値計算との比較を通じ、その妥当性を確かめた。そして、本手法の大きな成果として、半古典分子動力学シミュレーションによる動的構造因子に補正項ω/Tを加えT→0の極限を取ることで、T=0のflavor wave理論による量子論の結果を再現できることを明らかにした。また、実験との関連性を考慮し、本手法が(様々な)異方性を持つ模型にも適用できることを確かめた。この手法は、任意のスピンの長さの量子磁性体へ拡張することも可能である。 本年度は他にも、一般化Dzyaloshinskii-Moriya相互作用を含んだスピン1の強磁性体の模型においてスピン液晶スキルミオン結晶やスピン液晶メロン結晶が現れることも明らかにした。上記の手法はこの模型にも適用可能であり、新規物性、新規輸送現象が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載したように、スピン1の量子磁性体の半古典的特性を正しく記述する新しい方法を確立できたため。これは、スピン1の量子磁性体におけるダイナミクス/輸送特性を捉えるためにも重要な進展である。また、当初の計画にはなかった、スピン液晶スキルミオン結晶やスピン液晶メロン結晶(系の秩序変数空間がCP^2であることから、CP^2スキルミオン/メロン結晶とも呼べる)が、スピン1の量子磁性体の模型で現れることも明らかにしたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は「磁性体における新規相・新規現象を対称性とトポロジーの観点から明らかにする」ことである。研究計画通り、これまでの研究で磁性体における準粒子であるマグノンによる新しいトポロジカル物性やその輸送現象を明らかにしただけでなく、研究計画には含まれていなかった、スピン液晶スキルミオン結晶やスピン液晶メロン結晶がスピン1の量子磁性体の模型で現れることも明らかにした。こうしたトポロジカルに新しい状態における静的・動的性質を詳細に調べることで新規物性・輸送現象を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画には無かった、本研究の遂行に協力してくださる研究員を雇うための人件費・謝金に予算のほとんどを使い、使用計画を大幅に変更したため。そうした研究員を雇えたおかげで、研究が当初の計画以上に進み、本研究を飛躍的に発展させるためにも、次年度に研究費を繰り越した。使用計画としては、主に研究遂行・発表に必要なノートPCの購入と国内・国際研究会の出張旅費にあてる。
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備考 |
第17回(2023年)日本物理学会若手奨励賞 [領域3 (磁性)] 「トポロジカルな磁性とその発現機構・創発現象に関する理論的研究」 https://www.jps.or.jp/activities/awards/jusyosya/wakate2023.php
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