研究実績の概要 |
磁気スキルミオン等のトポロジカルなスピンテクスチャとその創発磁場がもたらす新奇物性が広く関心を集めている。そのような磁気構造はスピンスカラーカイラリティ等で特徴付けられ、空間反転対称性の無い系で存在するDzyaloshinskii-守谷相互作用等の反対称相互作用によって安定化される。また、空間反転対称性を持つ磁性体においても、幾何学的フラストレーションやフェルミ面効果により現れる非自明な正の双二次相互作用に起因してスキルミオン結晶やスピンスカラーカイラル相が現れることが示されている。近年では、これらのスピンテクスチャの光制御の可能性についても盛んに議論されている。しかしながら、これらの多くは反対称相互作用の存在が本質的であり、空間反転対称性を持つ系におけるスピンテクスチャの光制御に関する研究はほとんどなされていない。 そこで我々は、空間反転対称性を持つ三角格子上近藤格子模型において、テラヘルツ電場の印加によって誘起される実時間ダイナミクスの数値解析を行った。結果として、強磁性金属相の基底状態を初期状態として直流電場を印加した場合は、およそ数百フェムト秒に相当する時間スケールで強磁性秩序が融解し、その後数ピコ秒でスピンスカラーカイラル状態(triple-Q状態)が現れることが見出された。また、このカイラリティの符号が円偏光の左右によって制御できることも明らかにした。これらの非平衡状態における磁気構造は、電場により駆動された電子の非平衡分布によって安定化され、反対称相互作用を必要としない。このことは、空間反転対称な遍歴磁性体がスピンテクスチャの高速光制御の有望な舞台となる可能性を示唆している。 他にも磁性体における新規輸送現象として、量子ダイマー磁性体XCuCl3 (X=Tl, K)のBose凝縮相において、電場で誘起/制御が可能なトリプロン熱ホール効果が現れることを明らかにした。
|