研究課題/領域番号 |
20K14413
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
家永 紘一郎 東京工業大学, 理学院, 助教 (50725413)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 2次元超伝導体 / 熱電効果 / 超伝導-絶縁体転移 / 量子渦(渦糸) / 超伝導ゆらぎ / 異常金属状態 |
研究実績の概要 |
2021年度には,乱れ効果の強い2次元超伝導体で期待されるクーパー対の局在化(ボース絶縁体)および渦糸のボース凝縮の実験検出のために,昨年度の試料(試料A)よりも膜厚が薄い,厚さ10 nmのアモルファスMoxGe1-xの超伝導薄膜を成膜した.局在性の違いによる効果を検証するため, Mo濃度の調整によって常伝導シート抵抗の異なる2つの試料を作製した.1つは試料Aと同じMo濃度の試料B, もう1つはそれより低濃度の局在性の強い試料Cである.実験手法は昨年度から引き続き,希釈冷凍機での電気抵抗測定と熱電効果測定を用いた.電気抵抗測定の結果,試料Bでは試料Aよりも常伝導シート抵抗の増加と転移温度の低下が見られたが,試料Aと同様に磁場誘起の超伝導-金属-絶縁体転移が観測された.試料Cは常伝導シート抵抗が極端に高く,ゼロ磁場下でも超伝導転移を示さない絶縁体的な振る舞いだけが観測された.これらの一連の結果は,常伝導シート抵抗をパラメータとした超伝導-絶縁体転移に対応する.0.1 Kの極低温域までの熱電効果測定の結果,試料Cの信号レベルは測定した全温度-磁場範囲で測定感度以下であった.これは,試料Cの超伝導性が完全に消失しているために,渦糸の信号も超伝導の振幅ゆらぎの信号も観測されないことを意味している.試料Bでは超伝導相内で渦糸信号が観測されたが,絶縁体相内では渦糸信号が消失し,ボース絶縁体の証拠は得られなかった.一方で,極低温域の絶縁体相内で観測された振幅ゆらぎの信号は試料Aよりも増大した。この結果は,局在性の上昇によって量子ゆらぎの効果が強まったためと解釈される.以上の結果を踏まえて今後は,試料BとCの中間の常伝導シート抵抗を持つ超伝導試料を作製することで,超伝導性と局在性のバランスを最適化させ,ボース絶縁体の実験的実証を継続してゆく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の磁場中金属状態の起源に関する論文成果(試料A)に引き続き,膜厚を減少させた試料Bを用いて極低温・高磁場域の量子ゆらぎに関する新たな知見を得ることができた.さらに,試料Bでは試料Aよりも超伝導転移温度や絶対零度での上部臨界磁場が減少しているため,常伝導相に存在する超伝導の振幅ゆらぎを,実験室で到達可能な温度・磁場の範囲内で,相対的に広範囲にわたり調査することが可能となった.現在,熱ゆらぎ領域(高温)から量子ゆらぎ領域(極低温)にかけての包括的な理解のために実験を継続中である.
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今後の研究の推進方策 |
まず, 現在測定中の試料Bについて,転移温度以上の高温域から極低温域の絶縁体相にわたって,振幅ゆらぎに起因した熱電信号の検出に焦点を絞って実験を進めていく.振幅ゆらぎの信号は渦糸の信号と比較して非常に小さいが,これまでに施した検出感度向上の工夫によって観測可能であることがこれまでにわかっている.その後,試料BとCの中間の常伝導シート抵抗を持つ超伝導試料を作製し,超伝導性と局在性のバランスを最適化させる.この試料に熱電効果測定を適用することで,ボース絶縁体の実験的検出を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の終盤で実験の根幹を担う極低温用の温度コントローラーが故障し,海外製品であることとコロナ禍の事情のために修理納期が来年度にまで及ぶことが判明した.その一方で実験は予想以上の方向にも進展を示しているため,次年度も継続して実験を推進していく必要がある.
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