2020-2023年度にかけて,常伝導シート抵抗の異なる4つのアモルファスMoxGe1-x薄膜(試料A-D)に対して熱電効果を測定した. 2020年度に測定した試料A(Tc0 = 2.58K)では,電気抵抗測定から磁場誘起の超伝導-異常金属-絶縁体(SMI)転移が観測された.0.1Kまでの熱電効果測定によって,異常金属(AM)状態の起源が量子渦糸液体であることがわかった.本成果はPhysical Review Letters誌に掲載された. 2021年度には,局在性を高めて渦糸ボース凝縮を実証するべく,常伝導シート抵抗値がより高い2つの試料B,Cを作成した.試料B(Tc0 = 2.36K)ではSMI転移が観測されたが,渦糸の熱電信号の観測はAM状態内部にとどまり,渦糸ボース凝縮の証拠となる絶縁体相内での渦糸信号は観測されなかった.また,試料Cはゼロ磁場ですでに絶縁体であり,渦糸信号も観測されなかった. 2022年度には,試料Bに対して広い温度-磁場範囲で熱電効果を行い,熱ゆらぎ領域から量子ゆらぎ領域にかけての包括的な理解が得られた.また,量子-熱クロスオーバー線の発見によって,AM状態の起源が量子臨界点の存在に起因することを実証した.本成果はNature Communications誌へと掲載された. 2023年度は,試料Bと試料Cの中間の常伝導シート抵抗を持つ試料D(Tc0 = 0.8K)を測定した.SMI転移が観測されたが,これまでと異なり,AM状態内で振幅ゆらぎに起因する量子グリフィス(QG)状態が観測された.従来,QG状態は高結晶性の2次元膜で観測され,試料内の欠陥によって誘起されると言われてきた.今回の試料Dは,常伝導シート抵抗をパラメータとした超伝導-絶縁体転移の臨界点近傍に位置するため,強い量子ゆらぎのせいでQG状態が生じた可能性がある.また,試料Dでも絶縁体相内の渦糸信号は観測されなかった.このため今後は,さらに局在性の強いアモルファス超伝導体(MoxSi1-xやInOx)を用いて渦糸ボース凝縮の実証を行う予定である.
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