研究課題
磁性薄膜や層状磁性体は、一般に強い磁気異方性を示しうることが知られている。特に、面直方向に磁化容易軸をもつ磁性薄膜や磁性材料(垂直磁気異方性材料)は、スピントロニクスへの応用の観点からも有望であると言える。これらの磁気異方性は、結晶構造の異方性に由来する電子状態の異方性によって引き起こされると考えられる。この電子状態の異方性を分光学手法によって明らかにするため、X線磁気円二色性(XMCD)(特にその角度依存性の測定)および X線磁気線二色性実験による磁性薄膜・層状磁性体の研究を行うことが本研究の目的である。このような電子軌道の異方性を定量的に表すものとして、多極子と呼ばれる物理量がある。最終年度にあたる令和4年度には、高次の多極子を持つことが理論予想されている磁性材料Ba2CaOsO6に対するXMCD実験を試みた。結果として、磁性元素のOsのXMCDスペクトルが磁気転移温度の上下でわずかに変化することが示され、多極子秩序が形成されている可能性が示唆された。この結果について、日本放射光学会年会において口頭発表を行った。また、前年度(令和3年度)に出版した層状磁性体FexTiS2の磁気異方性の起源をXMCDにより調べた結果について、国際会議にて招待講演を行った。期間全体を通じた成果として、磁気異方性の起源には複数の機構が考えられ、軌道磁気モーメントが凍結(消失)していない系としている系とでそれが本質的に異なることを見出したことが挙げられる。上述のFexTiS2のような前者の種類の磁性体では残存した軌道磁気モーメントが磁気異方性へ直接寄与するのに対して、後者の種類の磁性体では磁場によって(摂動的に)誘起された微小な軌道磁気モーメントや電子軌道の形状の変化が磁気異方性と関連していることが示された。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Physical Review Materials
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