研究実績の概要 |
本研究では,種々の層状カルコゲナイド化合物に対し,金属と有機分子のコインターカレーション(共挿入)によるキャリア濃度と層間長の同時制御を試み,より高い超伝導転移温度Tcを持つ新物質の探索および新奇物性の開拓を進めている。 前年度までの研究において,鉄系超伝導体FeSeにリチウムと直鎖モノアミンをコインターカレートすることで,層間長が最高で55.7Åまで飛躍的に伸長した過去に類のない新規FeSe系超伝導体(Tc = 42 K)の合成に成功した。また,高温・高圧下で反応させるソルボサーマル法を採用することにより,アルカリ土類金属とエチレンジアミン(EDA)をコインターカレートした新規FeSe系超伝導体(Tc ~ 43 K)の合成に成功した。 本年度は,FeSeにアルカリ土類金属とEDAをコインターカレートしたAEx(EDA)yFe2-zSe(AE = Ca, Sr, Ba)におけるTcと電子ドープ量の関係を調査するため,AEの仕込み組成xをx = 0 - 2の範囲で合成した試料の評価を行った。ICP組成分析の結果,インターカレート可能なAE量はx ~ 1程度であることが明らかとなった。また,Tcはアルカリ土類金属の種類や量にはあまり依存せず,概ねTc ~ 43 Kとなることが分かった。以上の結果を論文にまとめる予定である。 また,T = 346 K近傍で電荷密度波転移を示す層状物質CuTeにリチウムとEDAをコインターカレートした新物質の合成にも成功した。物性測定の結果,コインターカレーションにより電荷密度波秩序を抑制することに成功したが,2 Kまでの温度範囲において超伝導転移は観測されなかった。電子状態密度をバンド計算により求めたところ,リチウムによる電子ドープはこの系のフェルミ準位における電子状態密度を減少させる方向に働くことが明らかとなった。
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