研究課題/領域番号 |
20K14419
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
杉本 聡志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 研究員 (90812610)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁気スカーミオン / 機械学習 / 希土類金属間化合物 |
研究実績の概要 |
磁気スカーミオンは、小型・低エネルギー化が可能となるトポロジカル特性を示す磁区構造である。 本研究では、薄膜ヘテロ構造に安定化するスカーミオンの非線形応答に着目し、物性モデルの新規構築やデバイス応用を目指す。並行して、デバイス実装に適した安定化材料の開拓も行う。 3年度目では、Co/Ptポリ結晶薄膜ヘテロ構造で発現する非線形応答を利用することで、スカーミオンを用いた物理リザーバーの構築に成功した。これらの応答領域では、リザーバーに要求される不揮発性・多次元性・非線形性を全て満たすため、入力信号に対する電気応答をホール信号として検出し、再帰させることで、波形認識タスクに対して高い再現性を担保することに成功した。この結果は、スピントロニクス関連素子としては、スピントルク発振子に続く結果で、スカーミオンの非線形応答をデバイス活用した実績として評価できる。 平行して、前年度に引き続き、高温稼働・大規模生産が採用可能な、産業応用を視野に入れた材料研究を進めた。この一環として、2010年代後半に提唱された、磁気異方性転移に伴い発現する面内スカーミオンに新たに着目した。室温近傍においてスピン再配列が誘起されるCaCu5型NdCo5を採用し、スパッタ法による薄膜作製を行った。同材料のc軸を基板面内に配向させることで、高温側のスピン再配列に伴い、面内-面直間の異方性転移が生じ、これにより同温度領域での巨大なトポロジカルホール信号の検出に成功した。前年度のMn系逆ホイスラー合金と比較し、トポロジカル信号の消失温度が270K以上と室温近傍まで漸近し、最大化磁場も1Tから大きく減少したことで、将来的なデバイス化で希望される零磁場・室温稼働の特性に近づく結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の命題となる非線形応答に着目した明確な成果として、物理リザーバーの構築を報告できたことは大きい。同結果には、研究代表者の保有する精緻な界面異方性設計技術が不可欠なため、技術的な観点からも本研究課題の独自性を担保すると評価できる。 材料研究に関しては、特性向上と新規安定化機構の報告という観点で堅実な進捗といえる。一方で、前年度から計画していたMn系逆ホイスラー薄膜における磁気イメージングに関しては、ナノスケールのグレインの形成や測定技術の問題から実現に至っていない。 以上を総括して、進捗状況としては概ね予定通りと評価した。 これらの研究実績は、国際学会で発表が行われ、関連論文を含め、今年度で3件の論文発表(査読あり)に繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から進めていた薄膜における磁気イメージングに技術的困難が生じたため、並行して非線形応答研究、及び材料開拓にもエフォートを割き、全体での成果創出を狙う。 1.非線形応答の電気的検波と制御手法の開拓:トンネル磁気抵抗効果等を用意することで、非線形領域での電気応答を精緻に変換する機構を用意する。これらを発展させることで、や、非線形応答でのより細かな物性評価や、物理リザーバーに続くデバイス構築を目指す。 2.室温・零磁場近傍での巨大トポロジカル信号の検出:NdCo5薄膜を母体とし、不純分ドーピングや格子歪により、スピン再配列温度をより高温側に変調し、室温以上での面内スカーミオン安定化を目指す。同材料は熱電交換材料の観点からも特性向上が着目されていることに着目し、関連研究を参照した効率的な材料研究を目指す。 3.薄膜におけるアンチスカーミオン・面内スカーミオンの磁気イメージング:前年度に引き続き、電子透過型顕微鏡によるローレンツ観察、磁気力間顕微鏡、電子線ホログラフィー法による検出を狙う。
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