磁気スカーミオンは、小型・低エネルギー化が可能となるトポロジカル特性を示す磁区構造である。 本研究では、薄膜ヘテロ構造に安定化するスカーミオンの非線形応答に着目し、物性モデルの新規構築やデバイス応用を目指す。並行して、デバイス実装に適した安定化材料の開拓も行う。 最終年度では、薄膜スカーミオン系において基幹的な駆動力となるスピン軌道トルクに着目し、より高速・高効率、かつ新規性を担保するような研究開発を進めた。その過程で、申請者はヘテロ構造のフェルミ面における対称性の議論を発展させ、意図的に系の対称性を破ることで、前述の幾何学的制約を克服するという着想を得た。この方法論は、低次の回転対称性を示す材料(本研究ではトポロジカル絶縁体であるBi2Te3)と、ナノスケール構造変化を組み合わせることで、本来はいかなる結晶系でも実現し得ない、トリビアルな回転対称性[C1]を実現する手法となる。実際にBi2Te3/CoFeBにおいて対称性操作を行い、共鳴トルク法・二次高調波測定によりスピン軌道トルクを評価したところ、従来の面内直交成分に加え、面直成分と平行成分の生成を初めて観測した。この結果は、将来的にスピン軌道トルクによる磁気トポロジーの制御を大きく刷新するものとして期待が持たれる。 研究期間全体を通し、非線形応答を活用した物理リザーバーの構築、安定化材料としてMn基逆ホイスラーやNd-Co化合物の薄膜化と室温近傍でのトポロジカル特性の検出と併せて、基礎研究、材料探索、デバイス応用の3つの観点から一定の進捗が得られた。
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