研究課題/領域番号 |
20K14422
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小沢 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (50826013)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 三角光格子 / 量子気体顕微鏡 / 冷却原子 / ボース気体 / ラマンサイドバンド冷却 |
研究実績の概要 |
本年度は、87Rb原子に対して量子気体顕微鏡(Quantum Gas Microscope, QGM)を完成し、論文誌に発表し、ポスター発表を行った。QGMとは、光格子中の冷却原子を単一格子点・単一原子レベルで観測する技術である。我々は、このQGMを三角光格子中の冷却原子を組み合わせることで、フラストレートスピン系の量子シミュレーションができると考え、開発に取り組んできた。QGMを実現させるためには、各格子点を区別するのに十分な分解能、および単一原子を検知するのに十分な感度が必要となる。高分解能を得るために、高いNAをもつ対物レンズを使ったイメージング系を構築した。一方で、高感度を得るにために、蛍光イメージングを用いた。発光観測の際に、光子の吸収と放出による原子の加熱が伴い、原子のホッピングやロスが起こり、観測のフィデリティーが下がる。この加熱の影響を抑えるために、ラマンサイドバンド冷却(Raman Sideband Cooling, RSC)を適用した。の冷却機構が動作するには、ラマン光やポンピング光の強度・周波数といったパラメータを最適化する必要がある。我々は、ベイズ推定に基づく自動最適化をこの問題に適用した。自動最適化の結果、長寿命(>6 sec.)かつ高感度(240 photons/atom at 500 ms)の蛍光イメージングが可能になった。上記の装置実装、パラメータ最適化作業の結果、三角光格子中の87Rb原子からの発光を単一原子レベルで観測することに成功した。さらに、点広がり関数を評価し、各サイトを分離することができる分解能(点広がり関数のFWHM = 679 nm < 三角格子の格子間隔 = 709 nm)があることを確認した。また、観測のフィディリティも評価し、96.3%の高いフィデリティが得られていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、三角光格子中の87Rb原子に対して、単一格子点・単一原子レベルでの観測方法を確立することができた。今まで量子気体顕微鏡は正方光格子中の冷却原子に対しては既に実現されていたが、三角光格子に対して実現したのは、我々が最初の例である。さらに、ラマンサイドバンド冷却のパラメータに対して、ベイズ推定に基づく自動最適化を適用し、長い寿命(>6sec.)と高いフィデリティー(96.3%)を得られている。ラマンサイドバンド冷却のような複雑な依存関係を持つ実験パラメータでも自動的に最適化が行われることを示した。これらの成果を、国際学会にてポスター発表を行い、論文誌にも出版した。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究内容として、以下に説明する2点を計画している。
まず第1に、QGMを使って、三角光格子中の超流動-モット絶縁体(SF-MI)転移を観測する。SF-MI転移は、光格子中のボース縮退気体のベンチマークテストとしてよく利用される。我々の実験系においてSF-MI転移を観測する上で、2つの課題があることがわかっている。1つ目の課題は、87Rb原子をボース縮退する温度まで冷却することである。この問題に関しては、焦点可変レンズを用いたdimple trapを新たに導入し、蒸発冷却効率を向上することで解決する。もう1つの課題は、SF-MI転移が発現する浅い光格子と、観測を行う深い光格子を共存させることである。この問題に関しては、ログスケールの光強度検出器を用いることで、3桁のダイナミックレンジを稼ぐことを計画している。以上の課題をクリアして、SF-MI転移を観測することで、様々な量子シミュレーションを行うための下地となるユニットフィリング状態を実現できる。
2つ目の研究内容として、機械学習(ML)を使って、QGM観測のフィデリティを向上させる。我々の実験系では発光観測の方法としてRSCを採用している。これまでもMLを使ってRSCパラメータの自動最適化を行っていたものの、MLが最適化するパラメータ数や範囲、また最適化するスコアの定義にも改善の余地があることがわかっている。これらの改善を施すことで、より高いQGMのフィデリティが得られるだけでなく、最適化結果からRSCに関する興味深い物理的知見が得られる可能性もあると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(未使用額が発生した理由)研究成果を国内会議・国際会議で発表する予定だったが、コロナ禍のため出張ができなくなったので、計画を変更する必要が生じた。 (次年度における未使用額の使用用途)旅費ではなく、ミラーやレンズなどの必要な物品費に充てること計画している。
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