研究実績の概要 |
本研究では、固着液滴(sessile droplet)を用い、ダイナミックに形成される相分離に対する生体膜成分の効果解明を目指した。まず、生体膜成分の効果解明を目指す準備として、固着液滴乾燥相分離過程における高分子濃度の効果を調査した。その結果、同じ重量比組成であっても、初期高分子溶液濃度に依存して異なるパターンを示すことを見出した。より詳細な観察を行うために、蛍光修飾された高分子を混合し、相分離にともなう濃度分布の可視化を行い、高分子の種類によって、基板上における堆積分布が異なることを見出した。次に、初期条件では一相状態を示す、二成分水溶性高分子混合水溶液を用い、ガラス基板上における乾燥にともなう相分離および特異なパターン形成を(i)初期溶液高分子濃度、(ii)高分子組成および(iii)高分子を構成単位のモノマーユニットに置き換えた場合の3点に着目して観察した。その結果、高分子混合溶液の乾燥により相分離が進行するとともに、ガラス基板上での筋状の特異なパターンを形成することを見出した。このパターンは相分離にともない、液滴周縁部に生じる相を、液滴中心へと後退する相が引き込むことで、特徴的な筋状のパターンが形成されることを示した(Life 2022, 12(3), 373; https://doi.org/10.3390/life12030373 )。さらに、当初の目的であった、脂質添加の有無による高分子水溶液の相分離にともなう乾燥パターン形成の相違について調査・実験を行った。その結果、脂質添加の有無により、固着液滴の乾燥パターンが顕著に変化した。蛍光修飾高分子および蛍光脂質を添加し、各成分の分布を可視化したところ、脂質添加の有無により、乾燥にともなって生じる相分離構造に違いがあることが分かった。最終年度には、脂質の相状態も可視化できる蛍光色素の導入により、二成分高分子溶液の乾燥と相分離にともなう脂質の相状態の可視化も試みた。
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