研究課題/領域番号 |
20K14426
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西口 大貴 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20850556)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクティブマター / 集団運動 / バクテリア乱流 / アクティブ乱流 / トポロジカル物性 / 非平衡物理学 / 非平衡統計力学 / 生物物理学 |
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生などにおける秩序立った細胞集団運動では、組織形状などの境界条件と運動が強く結合している。一方で、バルクの実験系では、速度場が時空カオス的変動を示すアクティブ乱流状態が様々な実験系に共通して観察される。そこで本研究では、バクテリア濃厚懸濁液の示すアクティブ乱流状態であるバクテリア乱流を題材に、境界条件による集団運動の秩序化原理を実空間トポロジーに基づいて調べるとともに、その数理的性質を波数空間トポロジーの観点から解明する。これにより、アクティブマターのトポロジカル物性を実験的に直接観測することで、トポロジカル・アクティブマターという新領域を開拓することを目指している。 2020年度は、まずバクテリア濃厚懸濁液でアクティブ乱流を安定して観測できる環境を現在の所属研究室に確立した。そのために、米国・アルゴンヌ国立研究所の共同研究者から、実験に必要な枯草菌の株を輸入し、ストックの作成など基本的環境を整備し、培養条件の検討をおこなった。次に、フォトリソグラフィーによる微細加工で、アクティブ乱流の境界条件となる微小な柱をガラス基盤上に作成する方法を確立した。トポロジカル現象が出ると理論的に予測されている柱格子構造を作成し、その中にアクティブ乱流を流し込み、その柱格子中でアクティブ乱流の渦度が鏡映対称性を自発的に破った反強磁性渦格子秩序を発現することを実験的にも確認した。実験と並行して、本計画の基礎となる渦秩序の安定形成に関する理論研究を進め、一部の結果は論文としてまとめ、出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バクテリア株の入手や培養条件の検討を順調に終え、環境構築が順調に進んだ。また、微細加工についても、研究室に新たに導入したマスクレス露光装置を用いて作成するプロトコルを確立することができたため、従来のフォトマスクを用いた工程と比べて、実験設計と実験実施の間のフィードバックを大いに加速させることができた。2020年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により大学で実験できる時間が限られてしまったものの、条件検討の成功や実験プロトコルの効率化により、研究計画を順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
微細加工により作成した微小な柱格子の格子定数を調節することにより、渦格子秩序を最も安定して実現できる実験パラメーターを探索する。この条件下で実験をおこない、トポロジカル現象の直接検出を目指す。 並行して、バクテリア乱流内のバクテリア1匹1匹の運動様態を可視化する。これは蛍光を発現するバクテリア株を一部混ぜ込むことで、実現する。このための株は既に入手済みであり、混合比率や観察方法などの条件検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、大学滞在時間が例年より大幅に少なく、実験回数が少なくなったため、消耗品類の経費が当初の予定より少なくなった。また、大学での滞在時間を減らすためにも実験装置の更新なども翌年度に持ち越すこととした。消耗品類についても翌年度以降に集中的に実験を実施し統計を溜める際に使用することとした。2年目以降の当初の予算については、計画通り執行予定である。
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