研究課題/領域番号 |
20K14439
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩田 夏弥 大阪大学, 高等共創研究院, 准教授 (70814086)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ物理 / 高強度レーザー / 高エネルギー密度科学 / プラズマ粒子加速 |
研究実績の概要 |
本研究では、高強度光のエネルギー注入下での高エネルギー密度プラズマの構造形成過程と粒子加速機構に関する理論・シミュレーション研究を行っている。大エネルギーを有するペタワットレーザーの発展により、近年、光の圧力が1億気圧を超える高強度の光を、大スポット(レーザー波長の約100倍)で長時間(レーザー周期の約1000倍)にわたって物質に照射することが可能となってきた。光に照射された物質は瞬時にプラズマ状態となり、大量の相対論的エネルギーの電子が生成され、プラズマは加熱されていく。高強度光の照射が長時間におよぶと、従来の短パルスレーザーとの相互作用を対象とした理論では説明できない高エネルギー粒子加速や高温物質加熱が起こることが実験研究により報告されているが、その機構は明らかになっていない。 本研究では、固体に継続的に光を照射すると、高エネルギー電子の運動に統計的性質が現れ、短パルス高強度光との相互作用とは異なる定常的な電子の空間分布およびエネルギー分布が形成されることを見出した。高エネルギー電子は、加熱された固体密度プラズマが作る荷電分離電場にトラップされ、プラズマ中を縦横に光速に近い速度で動き回る。継続的な光の照射下では、高エネルギー電子がプラズマを周回中に揺動磁場・電場に何度も散乱を受けることで実効的にレーザースポット内に閉じ込められ定常的な密度分布を形成すること、またこの閉じ込め効果によって電子が高エネルギー加速を受けることが明らかになった。これらの成果について学会発表を行い、現在国際共著論文を投稿中である。 今後、閉じ込めを受けた高エネルギー電子の加速特性をプラズマ粒子シミュレーションを活用して明らかにする。また、高強度光照射下におけるプラズマ中の粒子と電磁場間のエネルギーの授受を解析することで、プラズマ構造形成過程の理解につなげる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、米国ローレンスリバモア国立研究所の研究者と共同で進めており、当初の計画では米国出張や国際会議への出張を行い、直接議論しながら研究を遂行する予定であった。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により予定していた海外出張ができなかったが、代わりにオンライン会議システムを活用し1か月に1-3回程度頻繁にミーティングを行うことで、研究をおおむね順調に進めることができた。その成果として、高強度レーザー光のエネルギー注入下での電子の統計的ふるまいとプラズマ構造形成に関する理論モデルを構築し、本課題の代表者(岩田)が筆頭著者である国際共著論文を投稿するに至った。研究成果は、オンラインで開催された国内学会やワークショップにて積極的に発表を行っている。その中で、本研究で得た長時間の光照射下でのプラズマ構造形成に関する知見が、レーザー駆動イオン加速および高密度物質の等積加熱過程の解明にも貢献できることがわかってきた。これらの関連研究を展開するため、フランス・ボルドー大学の研究者を含めた共同研究としてオンラインにて議論を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究で見出した高エネルギー電子の閉じ込め機構は、高エネルギー密度(高温・高密度)のプラズマ形成に繋がるものである。高強度光による継続的なエネルギー注入のもとでの高エネルギー密度プラズマの形成・発展の過程を理論的に解明することは、高輝度X線輻射源や高エネルギーイオンビーム源、制御核融合など応用研究を進めるための基盤となるだけでなく、非平衡性・非線形性の強い状態での物性を明らかにすることに相当し、基礎物理として重要な課題であると考える。2021年度からは、閉じ込めを受けた高エネルギー電子の加速特性の解析を開始し、加速により得たエネルギーがプラズマ中の粒子や電磁場にどのように輸送されていくか、そのダイナミクスをプラズマ粒子シミュレーションを活用して明らかにする。2020年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、国内および海外出張を行うことができなかったため、主に当該分野の理論研究者とのオンラインミーティングを通して研究を進めた。今後は、実験研究者を含めて広い研究交流を進め、大型レーザー装置を使った実験提案等につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費について、新型コロナウイルス感染症の影響により、参加を予定していた国際学会および国内学会が全て延期またはオンライン開催となり、さらに国際共同研究の相手機関(米国)への出張も困難であったため、計上していた金額を使用しなかった。 その他について、新型コロナウイルス感染症の影響により、参加を予定していた国際学会が全て延期またはオンライン開催となったため、参加を取り止めたことにより学会参加費が発生しなかった。また、出版した論文について論文掲載料が不要であった。以上の理由から次年度使用額が生じた。 繰り越し分は、次年度の後半に海外出張が可能になった場合に旅費や学会参加費として使用する。また、オンライン会議による共同研究をスムーズに進めるための機器・ソフトウェア等の購入や、大容量データの保存のための機器の購入に使用する。さらに、2020年度の研究成果により現在投稿中および投稿準備中の論文が複数あるため、それらの論文掲載料として使用する計画である。
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