研究課題/領域番号 |
20K14442
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
向井 啓祐 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (70807700)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 中性子発生 / 核融合 / 水素同位体 / 放射線 / 中性子計測 / 水素吸蔵合金 |
研究実績の概要 |
本年度は放電型中性子源のDT運転化に向けた燃料供給システムに関する研究を実施した。既存の燃料供給システムでは連続的に燃料ガスの供給・排気を行っているため、放射性物質であるトリチウムが利用できない。そのため、トリチウムの供給システムに加え、トリチウム利用を可能とする燃料システムの構築が要求されている。そこで、水素吸蔵材料を用いた自己自給型燃料システムの開発を行い、長時間運転における真空容器内のガス組成変化と、それが中性子発生に及ぼす影響を調べた。アーク溶解によりZrCo合金を製造し、水素吸蔵前後の結晶構造の変化をX線回折装置により調べた。ZrCo合金をU字チューブに充填し、活性化処理を行った後に、プラトー領域の重水素ガスを供給し、自然冷却させることで燃料のD2ガスを吸蔵させた。中性子源の運転では、ZrCo合金の加熱温度を調整することで重水素圧力の制御を行い、高電圧を印加することでDD運転を実施した。安定的な電圧を維持した状態で、1時間以上にわたり放電が持続された。中性子発生数は34 kV、3 mAの条件において、104 n/s程度であった。DD運転の間、真空容器内にて水素同位体交換が起こり、燃料である重水素ガスが希釈されていることがわかった。これにより、中性子発生量が減少する燃料の希釈効果が誘発されていることが明らかにされた。実験後に吸蔵反応により真空容器内の燃料の回収が確認されたことから、本システムを用いることで未燃焼の水素同位体燃料の再利用が可能であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水素吸蔵材料ZrCoを使った燃料供給システムを開発・運転を実施した。本テーマは3年度目に実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大のため、2年度目に実施し、当初2年度目に実施予定であった実験を3年度目に実施することとした。 実験の結果、燃料の自己供給回収システムを備えた放電型核融合中性子源において、1時間以上にわたり、安定的なDD運転の維持が可能であることを実証した。同時に、ZrCo充填層の温度変化により、印加電圧の制御が可能であることを示した。運転前後のガスの質量分析により、真空容器内の圧力に影響を及ぼす因子を明らかにした。真空容器内の圧力が平衡に達するためには、ZrCoサンプルによる燃料の吸脱蔵、放電によるガス消費、そしてチャンバー及び電極表面からのガス消費のそれぞれの量が釣り合う必要がある。運転中には、真空容器内にて水素同位体の交換が起こり、燃料である重水素ガスが希釈されていることが確認された。この同位体希釈により、中性子発生量が減少する燃料の希釈効果が誘発されていることが明らかとなった。これらの成果をもとに、運転時のトリチウム燃料の使用量を評価し、DT燃料を用いた長時間運転に向けた工学的指針を示した。本成果は、国際学会においてポスター発表を行い、論文投稿を行い、査読付き学術誌International Journal of Hydrogen Energyに掲載された。また、次年度の実験に向け、単結晶ダイヤモンド検出器の校正を行った。構成にはカリフォルニウム標準線源を用い、得られた校正直線により、6Li(n,t)反応を用いたトリチウム生成反応率の計測ができる準備が整った。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度の実験ではDT核融合中性子源(中性子エネルギ―:14.1 MeV)を用いて模擬ブランケット体系内での中性子輸送実験を実施する。単結晶CVDダイヤモンド検出器によって体系内部におけるトリチウム生成反応率を計測する予定である。本検出器は令和3年度に標準線源および放電型核融合中性子源を用いて校正済みでり、ピーク分析から燃料トリチウムの生成率を実験的に評価可能な状態にある。実験では、DT中性子環境において、6Li(n,t)反応を用いた熱中性子測定とC(n,a)Be反応を用いた高速中性子束の同時測定・オンライン計測を目指す。同時に、複数種の放射化箔を用い、DT中性子環境下で中性子束分布測定を目指す。DT核融合中性子源には大阪大学の照射装置を用いることを予定しており、担当者から既に内諾が得られている。また、令和4年度が最終年度となるため、これまで得られた実験結果の整理、中性子輸送シミュレーションによる妥当性の検証等の研究のとりまとめを行う。得られた結果を整理し、学会発表および論文投稿を行うことを予定している。
|
備考 |
研究室ホームページ内に研究成果について説明するページを作成し、成果の概要やインパクト、論文情報を周知した。
|