研究課題/領域番号 |
20K14450
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
成田 絵美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 那珂研究所 先進プラズマ研究部, 主任研究員 (50757804)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乱流輸送 / 帯状流 / ジャイロ運動論コード / 機械学習 / ニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
令和3年度は、乱流輸送モデルDeKANISの汎用性を高めるため、DeKANISが採用する乱流飽和モデルの変更及び輸送係数の算出に用いるニューラルネットワークモデルの訓練データの拡張を行なった。まず乱流飽和モデルについて、初期のDeKANISは乱流揺動の飽和レベルの評価にJT-60Uの実験データを利用していたが、令和2年度に混合長理論に基づく手法を導入した。この手法では帯状流による乱流揺動の抑制効果を無衝突の仮定の下で考慮していたため、抑制効果の衝突による減衰を飽和モデルに取り入れた。その結果、JT-60Uのプラズマに対しては予測精度を保ちつつ、JETのプラズマに対して見られていた乱流流束の過小評価の傾向を解消することに成功した。次に訓練データの拡張について、これまではJT-60UのHモードプラズマの変数領域のみをカバーしていたが、先述のJETのプラズマの変数領域まで訓練データが及ぶよう拡張した。訓練データはジャイロ運動論コードによる第一原理計算で生成されており、7千点程度から1.1万点程度まで増加させた。領域が特に広がった変数の一つは電子とイオンの温度比である。電子加熱が強く、電子の方が高温の場合でもジャイロ運動論コードが予測する輸送係数を再現できるようになった。拡張後の訓練データで構築したニューラルネットワークモデルを新しい乱流飽和モデルと合わせて用いることで、ITERのPre-Fusion Power Operationフェーズで計画されている電子加熱主体の放電の予測にDeKANISを使用することが可能になった。 DeKANISの改良に加えて、ジャイロ運動論コードから得られる速度分布関数の時間発展を波数空間上の画像として可視化し、画像の特徴を捉える畳み込みニューラルネットワークモデルの開発を進めた。このモデルはジャイロ運動論コードの実行に必要な計算資源の削減に資する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度に予定していたとおり、混合長理論に基づく乱流揺動の飽和レベルの評価手法に改良を加え、汎用性を向上させた。さらに、開発した輸送モデルDeKANISでITERの予測が行えるまでに適用可能な変数領域を拡張させた。DeKANISはニューラルネットワークモデルを利用することで、高速に温度・密度分布を予測するだけでなく、拡散と非拡散という輸送過程に分けて乱流流束を算出するため、形成された分布形状の背景にある輸送物理を明らかにすることができる。このような輸送物理の研究をITERで想定されるプラズマでも可能にする道筋をつけた。得られた成果は学会発表済みであり、招待講演に複数選出された。また、令和2年度までの成果をまとめた論文2編が出版された。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に設定していた研究課題のうち、硬直性が観測されているJT-60Uプラズマの輸送解析結果をDeKANISに反映し、硬直性が生じる要因を第一原理計算から示される輸送過程に基づいて説明するという課題、さらに、電子とイオンの粒子輸送を無矛盾に扱うために、イオンの粒子束も予測できるようDeKANISの拡張を進めるという課題が残されている。これらの課題に取り組む。また、令和3年度にITERのプラズマ予測を行なったところ、更なる訓練データの拡張が必要であることが示唆されたため、訓練データの拡張を継続して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、国内外の会議及び研究打ち合わせがオンラインに切り替わり、旅費が不要になった。残額は令和2年度に購入したワークステーションに導入するソフトウェアの購入に充当する予定であったが、同等品を無償で導入できることが分かり、支出する必要がなくなった。差額は、論文発表費に充てるほか、対面での会議が増えつつあるため、国内外の会議及び研究打ち合わせに参加するための旅費として支出する予定である。
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